一番好きなものは何か、と聞かれたら、私は迷わず「バイク」と答えるだろう。好きなものを最後にとっておいたわけでもないが、連載最終回のテーマは「バイク」。走っていなければ転ぶ、危なっかしくもいとおしい不思議な魅力に満ちた機械、バイクについての私的かつ独善的な見解をお届けします。

 ――父・小栗雅裕さんが大人になった2人の息子に向けた、「自分の世界」を持つことの大切さを伝えるメッセージです。

止めてくれるな、オイラは行くぜ、どこまでも…って聞いてないか!(イラスト/小栗千隼)
止めてくれるな、オイラは行くぜ、どこまでも…って聞いてないか!(イラスト/小栗千隼)

バイクは危険な乗り物か?

 バイク乗りには、バイクに乗ることを人に勧めてはならぬ、という不文律のようなものがある。後に妻となる彼女は、出会ってしばらくは私のバイクの後ろに乗っていたが、知らないうちに教習所に通っていた。「危ないから」と止めても無駄だった。バイクに乗るというのはそういうことだ。自分で結果を受け入れることができる者だけが乗る資格がある。

 のっけから大層なことを言ってしまったけれど、初めは危ない乗り物だという認識は全くなかった。まず、フォルムが好きだった。むき出しのエンジンには官能的な魅力すら感じていた。特に、2サイクルエンジンの排気音と匂いが好きだった。そう話すと、長男は機械(メカニック)の美しさは分かるけれど、操るということにあまり興味を持てないと言う。

 「身一つで戦う光の巨人(ウルトラマン)は大好きだったけど、巨大ロボットありきで戦うヒーローにはついていけなかった。激戦の中で熱い操舵を繰り広げていても、結局シートに座って叫んでいる人っていうのは冷静に見るとちょっと面白過ぎる。同じ道具でも、楽器ならうまく扱えれば、聴く人に喜んでもらえるし、褒めてもらえる。絵を描くのもそうだけど、承認要求がオレは強いかも。その点、バイクはあくまでも一人の楽しみだよね」

 次男は「昔後ろに乗っていたけれど、実はずっと怖かった。危険な乗り物だという意識が強過ぎて、好きになれなかったんだよね。だからあまり乗せてもらわなかった。でも、快適なときもあったよ。気持ちよくなって眠りそうになるたび起こされていたのは覚えている(笑)」と振り返る。

 確かにバイクは危険な乗り物だ。実際、私も初めて転倒したときに骨折した。その後も、車と接触して2度転倒した。幸いなことに重傷には至らなかったが、息子たちに「危険な乗り物じゃないよ」とは言えない。「楽しみはそれに勝る」と言いたいところだが、危険と楽しみをてんびんに掛けるのは間違っていると思う。私も危険はあくまでも危険だと認識したうえで、できるだけリスクを減らすことを考えながら走っている。特に市街地では超がつくほどの安全運転に徹している。

 だけど、これだけは長男に言いたい。君は「座席に座ってうんぬん」と言うが、それは車であってバイクは違う。どちらかと言えばバイクは君の好きなスケボーやスキーに近い。バイクは体を意識して使わないと、うまく乗りこなすことができない代物なのだ。