ようこそ、自分の世界へ

 大人になると、友達はなかなかできないものだと思っていた。でも違った。

 次男が小学生になり、子育てもひと段落したころだった。君たちの母さんが、「そろそろバイクに乗りたいんじゃない?」と言った。思わず「バイクに乗りたいです!」と漫画『SLAM DUNK』の三井寿くんのように、父さんは答えたよ。そして、再び手に入れたのはBMWの「ロードスターR1200R」。このバイクがすてきな友人たちと出会わせてくれた。

 ちょっと地味でクセのある、いわゆる通好みのバイクだった(大衆人気がないとも言える)せいか、このバイク関連のSNSで出会ったオッサンたちは一癖も二癖もあり、かつ魅力的な人たちだった。何度か一緒にキャンプにも行った。私の料理教室にも通ってくれたので、君たちにもおなじみの方もいるよね。

 バイク乗り同士は距離感の取り方がうまい。つかず離れず、自分と相手のテリトリーを尊重するから、付き合っていてとても心地いい。孤独を愛するバイク乗り同士だからこそ、友達になれたのだ。

 バイクに乗っていれば、暑いときも寒いときもある。雨にもぬれる。それに独りで耐えなきゃならない。いや違うな、耐えるんじゃない、自然に身を任せるのだ。そのとき世界は、自分と一体になったマイワールドとなる。大げさだなと笑うかもしれないが、そこには父さんだけの世界がある。

 『息子と私とオートバイ』の最後に、こんなシーンがある。息子のクリスが「大きくなったら僕もオートバイに乗ってもいいよね」と言うと、「ちゃんとメンテナンスができればな」と父が応える。しばらくして、「僕、ちゃんとやれるかな?」という息子に「やれるさ、心配いらない」と父が優しく返す。

 自分だけの世界を持つこと、それさえできれば、何も心配ないよ。それを最後に伝えたかったのさ。

 ようこそ、自分の世界へ。

過去に乗っていたバイクのスナップ。妻もライダーの証拠写真あり。一年中ライダースジャケットにジーンズ、ブーツという格好だった
過去に乗っていたバイクのスナップ。妻もライダーの証拠写真あり。一年中ライダースジャケットにジーンズ、ブーツという格好だった
デスクの上のかわいいやつら。左の「kawasakiZ1R」、中央の「Ducati 750 SS」は今でも乗りたい憧れのバイク
デスクの上のかわいいやつら。左の「kawasakiZ1R」、中央の「Ducati 750 SS」は今でも乗りたい憧れのバイク