バイクは思索的な乗り物だ

 バイクにうまく乗れているときの感覚は、言い難い快感がある。周りがとてもよく見える。情報がものすごい勢いで体の中に入ってくるけれど、それが瞬時に処理できる。と同時に、様々な考えが頭の中に浮かび、それが加速し深まっていく。集中はしつつ、体も心もニュートラルで、何にもこだわっていない状態とでも言ったらいいだろうか。

 20歳のころに出会った『息子と私とオートバイ』という本が、今も手元にある。原題は「Zen and the Art of Motorcycle Maintenance」(後に『禅とオートバイ修理技術』という邦題で新訳も出ている)。精神を病んだことのある著者が息子とアメリカ大陸をオートバイで横断しながら、自分を取り戻していく話だ。バイクの不調、天候の悪化、それらに対峙することで思索は深まり、研ぎ澄まされていく。そして訪れる安寧と秩序。この本は今も私のバイブルだ。考えることの大切さを教えてくれて、またその考えを深めるための力になるものは、時には書物であり、時には映画や音楽であり、そしてただの機械にすぎないバイクでもあるということを知った。

私にとってのバイブルたち。『リラの頃、カサブランカへ』も手放せない大好きなバイクロードノベルの一つ
私にとってのバイブルたち。『リラの頃、カサブランカへ』も手放せない大好きなバイクロードノベルの一つ