ワインに居心地の良い環境に整えられたワインセラーを備えた店内には、1000種を超える豊富なワインたちが静かに出合いを待っている。
沼田さんが世界中から集めたワインはそのほとんどが、現地のその地域でのみ消費されるワインだ。そのため個性的で量も多くはない。日本で売ることなど考えたこともなかったという作り手が多いという。それでもそのワインに魅せられたインポーターや沼田さんの熱意に打たれ、集まってきたワインたち。一本一本に沼田さんの書いた特徴や作り手のメッセージなどが添えられている。
手に取ると、ワインが語りかけてくるようだ。沼田さんが心がけているのは徹底した手渡しの精神。この店に自分に合うワインを求めてくる人にできるだけ満足してもらえる一本を手渡すことだという。作り手の顔も見えるなら、飲む人の顔も見えるのが理想だろうと。ワインと料理の相性のことをマリアージュというけれど、作り手と飲む人のマリアージュを手助けするソムリエのような存在が沼田さんだ。
初心者にも、ワイン通にも勧められる3本
今回は息子が、自分が友人たちとのパーティーで飲むために持っていきたい3本を5000円ほどの予算でお願いするというコンセプトで選んでもらうことにした。
まずはドメーヌ・リカールの「ヴァン・ド・フランス・ムスー」。天然酵母による発泡ワインだからワイン初心者でもするっと飲めそう。グレープフルーツを思わせる溌溂とした柑橘系の香りを感じさせながらも、豊かな果実感が味わえる。
2本目は赤。ジル・アゾーニの「ル・レザン・エ・ランジュ(天使とブドウ)オマージュ・ア・ロベール2016」。酸化防止剤完全無添加ワイン。開けたてはわずかに感じられる発泡性が、空気に触れさせているうちに徐々に抜け、劇的に変化。これはヤバイ。するする飲めてしまう。
添えられたアゾーニさんの言葉がいい。「ブドウはキリスト、畑はマリア、作り手は二人に従う羊飼い。ブドウがすべてであり、従うもので、決して加工者であってはならない」。
3本目はボスカレッリ、イタリアワインだ。「ロッソ・ディ・モンテプルチアーノ 2014」。
香りが何よりもいい、開けたてはその香りに殴られるような感じがしたくらい、それが時間が経つうちに奥のほうから優しいスミレの花のようなフレッシュでいてふくよかな香りが感じられてくる。ああ、イタリアを思い出すなぁ。これは父ちゃんの感想。
3本を味わってみて息子いわく、「ブドウそのものを味わう感じだね、まさにブドウで作ったお酒、ブドウ酒。ワインは単なる飲み物ではないね、料理に複雑なおいしさがあるように、ワインにもそれがある。それを味わう。絵を観るというか、映画を観る、本を読む、そんな作品を味わうというか、そういう感じに近いかな」
おお、ついにワインのおいしさに目覚めたか!
「なかます」のようなお店が味方ならおサイフにも優しいし、人生の楽しみが増えたね。と父母と長男が勝手に盛り上がっている横で、19歳の次男、「あと、半年の辛抱だ、受験もあるしね」と悔しそう。人一倍、味にうるさい次男が「飲み」に参加する日が待ち遠しい。