インフルエンザの確定診断と治癒証明書は本当に必要?

 そうは言っても、インフルエンザであれば出席停止期間もありますし、治癒証明書が求められることもあるでしょう。文部科学省では、学校保健安全法でインフルエンザの出席停止期間を、「発症後5日かつ解熱後2日(幼児は3日)」と定めています。治癒証明書については、国のガイドラインでは提出は求められておらず、自治体や園・学校の対応に任されているのが現状です。

 今回、様々な園や学校の治癒証明書を見てみたところ、出席停止期間をきちんと守れば親が書いてもよい学校が増えてきているようでしたが、実際に医療機関で書いてもらわなければならない場合もありました

 治癒証明書のために医療機関を受診しなければならないということは、かえって感染者を増やしてしまうというのも、園や学校の先生には知っていただきたいことです。

 自分や家族がインフルエンザであるという診断がついているからこそ、熱が下がったとしても外出を控えたり、家庭でも部屋を別にしたり、何より堂々とお休みが取れるということもあるでしょう。

 けれども、確実なインフルエンザの診断が本当に必要なのでしょうか。症状が軽いのに、インフルエンザなのか、AかBのどちらなのか、診断をつけることがどれだけ重要でしょうか。

検査結果に振り回されず、出席停止は総合的に判断を

 インフルエンザの検査の精度は60~70%くらいといわれています。たとえ陰性であっても、調子が良くないのであれば園や学校(大人は仕事)を休むことはとても大切です。子どもの状態を見ずに、検査結果に振り回されてしまうことのほうが、ずっと問題ではないかなと思います。

 すべてのケースに検査が必要なのか、疑問に感じている点ではありますが、検査を完全否定しているわけではありません。検査の良い面について、先の山本先生も触れています。

 大切なのは、インフルエンザの経過を予想しながら、お子さまの症状を見守っていけるという安心感を得られることです。また、絶対ではありませんが、インフルエンザ以外の原因での発熱ではなさそうだという根拠がひとつ得られたことになります。抗インフルエンザ薬を使うための検査という位置づけだけではなく、疾患を理解し、慌てずに家庭で看護していくためのツールとして、役立てていきたいものだと思います。

 現状、インフルエンザと診断されないと休みにくいので、検査を受けるのは仕方ないのでは…という気持ちも分かりますが、「高熱が出ている」「体調が悪い」「インフルエンザの可能性が考えられる」、そのような理由で休む人がいることも大切です。そのようなケースが増えていくことで社会も少しずつ変化していくのではないでしょうか。今の社会をつくっているのは、私たち一人ひとりです。

 「国が悪い、会社が悪い」と人のせいにするのは簡単です。でも今の状況は、今生きている私たち一人ひとりが作り出しているもの。だから、自分が変わっていくことで、小さな小さな動きではありますが、それがやがて全体として変化していくと感じています。「自分一人くらい」「みんなが受診しているから」という理由ではなく、親として子どもの健康を見ていく、その習慣がつかめると良いのではないかなと思います。もちろん、心配だったらためらわずに受診を!です。

 医療機関による証明が必要ならば、なぜ必要なのか、園や学校に質問をポンと投げてみる。一度ですべてがガラッと変わるわけではありませんが、少しずつ少しずつ疑問を通して対話をしていくことが大切だと思っています。私自身も、とある学校へ現在、投げかけ中です。隣の学校などの動きで、一気に変わったりすることもあるので、諦めずに…。

「医療者が疲弊…」「必要な人に医療が届かない…」小児科から届く悲痛な声

 インフルエンザの確実な診断を求める人たちが増えれば増えるほど、医療機関はパンクしています。実際に、悲痛な声が上がっています。

 東京23区内で小児科クリニックが至る所にある地域では「そんなことはない、いつでも来てもらって構わない。むしろ来るなというようなメッセージを出さないでほしい」という医療機関もあるでしょうし、そういった声も確かにあります。しかし、そうではない地域からは、医師・看護師が疲労困憊しているという声も聞こえてきます。

 疲れきった医療者が十分な休養をとらずに、子どもたちを診ていることもあります。医療者はスーパーマンでもスーパーウーマンでもありません。本当に必要な人に必要な医療を…と思います。

 地域のクリニックでも「予約開始5分ですべての枠が埋まってしまう」「本当に調子が悪く診療が必要な子の予約が取れない」という場合も多くあると聞きます。受付で、緊急度・重症度の高い患者さんを優先するなどのトリアージが徹底していれば、病院に着いた時点で先に受診となりますが、そうではない医療機関も多くあります。

 インフルエンザか否かの確定をつけるために、本来受診の必要な重症な子の治療が遅れることや、後回しとなるようなことはあってほしくないと私は思っています。何も「遠くの誰か」のことを言っているわけではありません。自分の子が重症になってしまったときには、診てもらいたいと思います。