人とのかかわり合いが不足することにより何を失うかを意識しよう

汐見 何が言いたいかというと、21世紀は「これまで自然と育っていた道徳心が勝手には育たない時代」だと危惧すべきなのです。「やっぱり、人に対して嘘をついちゃまずいよな」とか「優しくしてもらうとうれしいから、私も人に優しくしよう」と思える道徳心を、今まで以上に意識的に育てていかなければいけない。それは教科書を読み上げて壇上から教えるだけの表面的な道徳教育ではなくて、ハードな問題を一緒に乗り越えたり、議論をしたりする中で培われていくプロセスでなければ意味がない。

駒崎 そういった流れは、日本以外の諸外国でも進んでいるのでしょうか?

汐見 日本は遅れているくらいです。知識重視型の教育では社会に出てからの課題解決に応用が利かないことは先進諸国でもすでに認知されていて、世界の経済発展を活動の目的としているOECD(経済協力開発機構)が今最も関心を寄せているテーマがずばり「教育」です。「21世紀に必要な知性とは?」と考えてきたOECDが重視しているキーコンピテンシーの一つが「討議する力」。それがどれくらい身に付いているかをテストするPISA調査では、日本の子どもたちの成績が芳しくないことも2000年前後に問題になりました。GoogleやAppleをはじめとする世界的なIT企業でも、21世紀型の知性を磨く人材育成にものすごく力を入れ始めていることも、よく知られている事実です。

就学前からのディスカッション教育で傾聴力、自分の意見を持つ子どもに

汐見 先ほども言ったように、これからは思い込みや勘違いが暴走するリスクが高い社会になる。だから、自分の意見を持ち、その根拠も自分の言葉で説明できる人間を育てていかなければならない。例えば、何か子どもが悪ふざけをしたときに、「ダメでしょ。なんでママの言うことを聞けないの?」と押さえ付けるのではダメです。「どうしてママの言うことを聞けないのか、理由を教えて?」と子どもの意見に耳を傾けてほしいと思います。

 子どもも大人もね、最初から自分の意見が明確にあるわけではないんですよ。人に聞かれ、あやふやでも答えていこうとするから、自分の感情が意見としてまとまっていく。根っこにある感情を論理立てて説明するというトレーニングを重ねて、ようやく人と討議できる力が身に付いていくんです。

駒崎 ディスカッション教育は家庭の中でできるし、むしろ就学前の段階からやっていくべきだということですね。

次回は、子どもたちが身に付けるべき「資質・能力」や非認知能力について聞いていきます。

(構成・文/宮本恵理子 写真/鈴木愛子)