育児はキャリアのプラスになる

駒崎 ただ、僕らより下の世代は、男性も価値観が全く変わってきていますよね。子育てに積極的に参加したいという男性は増えている。でも、彼らの上司層の価値観は古いから「子育てすると仕事にマイナスになるんじゃないか」という迷いもある。先生がおっしゃったような、育児がキャリアのプラスにもなるというメッセージは勇気づけられると思います。

中原 育児の経験が仕事に役に立つこともあるし、仕事があるから育児のリフレッシュになるという面はある。それをもうちょっと大きな声で言ったほうが、男性も女性もラクになるし、経営者も肯定的に捉えやすくなるはずですよね。「育児は経営に役立ちますよ」と言っていかないと。この問題に関しては、かつて浜屋祐子さんと共著で『育児は仕事の役に立つ』という本を書いています。

駒崎 これまではむしろ仕事に対して「邪魔なもの」「無駄なもの」という認識が根強くて「育児と両立するんだったらいいけれど、仕事に差し障りのないようによろしく」というおっさんが多かったけれど、実は逆だと。

中原 「育児はもうかる」とまでは言えないけれど、「仕事の役に立つ」とは言えることが、先ほどの浜屋さんの本では実証できました。

駒崎 具体的にどう役立ちますか?

中原 共働きの育児に関してで言うと、夫と妻がパートナーとして目標を共有して様々な調整を行っていく日々じゃないですか。これはチームビルディングやリーダーシップを磨く経験に他ならないですよね。育児を仕事のプロジェクトと重ねて見つめると、似ている点はすごく多いと思います。

駒崎 ワンオペ育児をチーム育児へとシフトチェンジするわけですね。職場の理解が足りないゆえにワンオペ育児に陥りがちで、夫もそれに最適化していく。結果、「もう夫に期待するのをやめた」となって、ヘルプシーキングをやめてしまうと窮乏のマイナススパイラルに陥ってしまう。これが日本中で起きている現状ではないでしょうか

中原 だと思います。女性も根気強く夫を育ててほしいと思います。自分のために。くだらない例で恐縮ですが、初めて夫にオムツ替えをお願いした時に、オムツのギャザーを出し忘れてウンチ飛び出しちゃった失敗とか、あるあるですよね。その時に「あーーー!!!  何やってんの? もういい! 私がやるから」と仕事を取り上げないであげてほしい(笑)。

 だって、ここで諦めてしまったら、2〜3歳違いの子ども2人で5年間分のオムツ替えを一手に引き受けることが確定してしまうわけでしょう? その労力って膨大。男も男で、都合よく「ラッキー。手放せた」と思っちゃいけない。

駒崎 新卒1年目の後輩だと思って、根気強くトレーニングしてほしいですよね。ちゃんと教えたら、戦力化するから(笑)。僕も育休を取りましたけれど、最初は超あたふた。今までやってきたことが全部通じない(笑)。「このウンチ、どうやって拭くの??」ってパニクりましたけれど、そのうち「水をかければ楽勝」とこなせるようになりましたから。

中原 面白いもので、子どもって自分で面倒を見ることでどんどんかわいくなっていくんだよね。あと、子育ては瞬時の意思決定の連続。例えばだけど、下の子のオムツを替えているときに、上の子がパーン!と窓ガラスを割って、その瞬間、ピンポーンって玄関チャイムが鳴るとか(笑)。さあ、どれ先やる?ととっさの判断力が問われます。「最高のリーダーシップ研修」じゃないですか。

駒崎 まさにそう。あと、育児を通じて異文化交流の機会も増えるんですよね。児童館に行って、ママさんから「お子さん、何カ月ですか?」と聞かれ、その後の会話が続かなくて、自分のラポール形成力不足にがくぜん、みたいな(笑)。

中原 いかに男が肩書きで生きているかだよね。子育てを通じて、全く見知らぬ人たちの中でゼロから共感や合意をつくっていく力が鍛えられるんですよ

(文/宮本恵理子 写真/鈴木愛子)