「無理です」と言えない部下に、上司は何をするべきか

駒崎 ヘルプ(支援)をシーク(探す)。「みんな、もっとヘルプシーキングしようぜ!」ということですね。これはワーママだけに投げかけているのではなくて、「ヘルプシーキングしやすい職場づくり」という環境面への介入も必要ですね。「困ったら言ってね」では不十分だと、先生も指摘されています

中原  困った時には……言えないでしょ? いきなり上司に「無理です」と言い出しにくいじゃないですか。非常時ではなく平時からコミュニケーションをとって状況をお互いに伝え合って、何かあった時に言いやすい関係性づくりから始めなければ。上司は子育ての事情を聞き出そうとするのではなくて、普通に仕事のことを聞いてあげればいいと思いますよ。

 「最近、仕事どう?」から始まって、今抱えている仕事の課題が出てきたら、「働き方に無理は出ていないの?」と聞く。この流れなら、本人も話しやすいし、非常事態になる前にピンチの芽を摘みやすいのではないでしょうか?

駒崎 自戒を込めて言いますが(笑)、マネジャーは「『困ったら言ってね』と言っただろ。なのになんで言わなかったんだ」というロジックに陥りがちですよね。「あのプロジェクト、どう?」みたいな日々の雑談、一見何も意味がなさそうなやり取りが、実はすごく効いてくるということですね。

中原  そうですね。あと、シグナルを早めにキャッチする意識も大事。大抵、しんどくなってくると仕事がポロポロこぼれるようになるじゃないですか。それに気づいた他のメンバーが「○○さん、大丈夫ですかね」と言ってくるときってあるでしょう。上司は、その時点で対処すればオオゴトになる前に解決できることは多いのでは。

駒崎 ありがちなのは、「子育ては大変だろうから」と先回りし過ぎて負荷の低い仕事しか与えないとか。二級市民的扱いをして「優しくしている」と勘違いする。そんなこと、本人は全然求めていなかったりしますよね。

中原  上司が目指すべき姿勢は「成果を求めながら、ヘルプする」。一見、矛盾するような結論ですが、「セーフティーネットがあるから、思い切ってチャレンジできる」というのは人材育成において重要な視点なんです。

駒崎 「成果を求めながら助けてほしいってどういうこと? だからワーママはワガママなんだよ」なんて逆風が吹きそうですが、ロジカルに考えると確かに納得できますよね。

中原 最近、「心理的安全性」を感じることのできる職場づくり、チームづくり、というものが人事業界では流行ですよね。「心理的安全バブル」と言った様相です。ですが、「心理的安全」というものが声高に叫ばれると言うことは、反対に、社会には、心理的安全とは対極の世界、つまり「成果ばかりを追い求める組織」が広まっているからでしょう。高い成果を求めるから、セーフティネットもセットで必要になる。このセットを理解せずに、「心理的安全を高める職場をつくろう!」なんてやると、単なる”心理的安全牧場”ができちゃいますよ

駒崎 成果を求めつつ、ヘルプする。ややこしいけど、ここをしっかり理解しておくと、“勘違い・優しい上司”にならなくて済みますね。

中原  そう思います。順番は、先に成果。まず、「あなたにはこれだけの目標達成をしてほしいんだよね」から始まって、「できそう?」「どうやってやる?」「もしできそうにないときとか、子どもさんが発熱したときにはどうやればやり切れるだろうね」「○○さんとチーム体制ならできるかな」と一緒に考えていく。組織のうえでのマネジャーの役割は、やはり成果を上げることなので、そこはブラさないほうがいいと思います

同僚の貢献を評価し、助け合いをたたえる

駒崎 非常に分かりやすいですね。同僚の関わり方についてはいかがでしょう?

中原  同僚に個別の配慮を求めるのは、現実的には結構難しいんじゃないかというのが僕の見解です。それよりは、マネジャーがちゃんと日頃の仕事ぶりを観察して、もしワーママ社員をフォローする行動が見られたら、きちんとその貢献を評価する。すぐに給料を上げるのは難しくても、「君が資料作成を助けてくれたことで、チーム全体の納期も守られたよ」と具体的に言葉にする。

駒崎 助け合いをたたえるということですね。

中原 様々な方々にお話をきいてみても、上司から言われてワーキングマザーの方々の仕事を手伝ったのに、上司は感謝もしないし、見てもいないという不満を良く聞きますね。「飛び散ってきた仕事をやったのに報われない」ということへの不満が一番ですよ。助けたのに見られていないという不満。だから、定期面談のときにも「今期は色々とメンバーを助けてくれたよね。今度こういう仕事があるんだけど、やってみない?」とチャンスを与えていく。