働く女性はマイノリティーの中のマジョリティー

駒崎 先ほどおっしゃった「女性は、マイノリティーの中のマジョリティー」という視点、すごく面白いですよね。

中原  さらに言えば、現在のマイノリティーは「将来のマジョリティー」になるんです。決して大げさでなく、現在のマジョリティーである「長時間働ける男性」というのは、確実にこれから「マイノリティー化」していきます。人手不足の日本社会では、女性、シニア、様々な人々が働ける時間に働くようになると思います。これから多様性まっしぐらの日本社会は、本当にハードな転換期を迎えると思いますよ

駒崎 僕が大好きな混乱期の到来です(笑)。フローレンスは女性が8割で、管理職も7割が女性。すでにマイノリティ-適応してきたので、全然余裕です(笑)。ここからはラクになるな、くらいに思えます。

中原  うちのラボも6割が女性で、子育て中の人もいたり、短時間勤務の方もいらっしゃいます。そういうこともありますが、1回も、ラボのメンバー全員で、夜に、一緒に飲みに行けたことはありません。歓送迎会はランチにしています。

駒崎 うちもそうです。歓迎ランチ、歓送ランチ。ただし、こういう職場はまだまだ少数派であると。

 ところで、この本にはワーママの働き方に関する興味深い調査結果も色々出ていますが、特に面白かった結果の一つがこれ。「ワーママは離職予備軍と見られがちだが、実はものすごく働きたがっている」というデータ。これは意外に感じる人が多いのではないでしょうか。

中原  ワーママにとっての転職はスイッチングコストが非常に高いのだと思うんです。だって、子育てが大変でいろんなことが起こるでしょう。子どもは、突然、なにが起こるかわからないという意味で、かなり大きな「変数」です。これに「職場」を変えちゃって、さらに「変数」を増やしてしまえば、になっちゃったら、変数×変数ですごく不安定になっちゃうじゃないですか。だから、職場はできれば固定化しておきたい。すなわち「定数」で見通しを持ちたいということです

 だいたい何が起きるか把握できる職場で働き続けるほうが、リスクが低くなる。イメージできないものはマネージできないから、イメージできる現状の職場を維持しようとするんです。

駒崎 働きやすい職場を求めて転職した先がもっとひどかったらやっていけませんもんね。ワーママの7割が今の職場で働き続けたいというのは経営者的には見逃せないチャンスで、ちゃんとモチベーションを保てるようにケアしていけば、非常にコミット度の高い社員になってくれると

我慢しているワーママにヘルプシーキングを広めたい

駒崎 もう一つ、印象的だったのは、「日本のワーママがかなり我慢している」というデータです。人生における幸福度を、日本人男性、日本人女性、アメリカ人男性、アメリカ人女性の4属性で比較したら、日本人女性が一番幸福度が低かったという。しかも、働いている女性が特にそうだったというのは悲しい結果ですね。

中原  2008年に実施された国際比較調査の結果を、本書でも紹介させていただきました。このデータに限らず、本を書くに当たって色々調べましたが、今回の調査でも、日本のワーママは相当な無理をしていると改めて感じました。

駒崎 ワーママに優しくない職場環境の中、なんとか頑張って成果を高めようとする。すると無理が生じる。ワーママの4割が睡眠時間を削っているのが現状だが、「睡眠時間削減は成果を出すのに逆効果である」と指摘されていますね。

中原  短期的にはどうにかなったとしても、長続きはしないですよね。長続きしないことは、やっぱり見直さなければならないのです。でも、見直すといっても、そう持ち駒があるわけでもない。女性にとって協力をあおぐといっても、持ち駒は、パートナー、両親と、それほど多くはないですよね。その持ち駒を増やすためにもっと周囲に助けの手を借りるアクション、職場のなかの「ヘルプシーキング行動(help seeking behavior)」を薦めています

駒崎 この「ヘルプシーキング」という概念は頭では分かっていたつもりですが、言葉としては初めて知り、非常に腑に落ちました。中原先生によると、「職場でヘルプシーキング行動をとれているワーママは成果を出しやすい」傾向にあるとも。

 福祉の世界でも、「支援を受ける力」がある当事者のほうが助かりやすいという状況が見られるのですが、それと一緒ですね。例えば、生活保護とか救済の手が色々用意されているのにもかかわらず、「受けたくない。受けなくても大丈夫」と拒否するうちに、どんどん問題が深刻化していく。

 逆に「とりあえず支援を受けながら、少しでも状況をよくしていきたい」という選択をするほうが早く改善しやすい。支援を受けない側の理由を聞くと「行政は信用ならない」「以前、頼ったときにガッカリさせられた」という不信感がほとんどで。支援を用意する側の準備が重要なのだと感じています。この構造と、ワーママの働きやすさ改善の構造はすごく近いのかもしれないと思いました。

中原  僕も二人の子どもを共働きで育てているので育児の現状は少しは分かっているつもりです。やっぱり、育児しながら働くってラクじゃないと思うんですよ。うちなんか、毎週、綱渡りです。もちろん「頑張る」努力や工夫は必要だと思いますが、過剰に一人で抱え込まず「超頑張らない」と決めるくらいの態度でいかないと続かないです。

 頑張り過ぎているワーママの方々の中には、「過去には周りを頼ることを試みたことがあった」という人もいると思います。でも、その結果、心ないことを言われたり、かえって過重労働のしわ寄せがきたりとひどい目に遭ってしまって、それが二度、三度続くと「もうやりたくない」と学習し、無気力に陥ってしまう。そしてさらに「私一人が頑張らなきゃ」という悪循環になってしまいがちです。負のループにハマる手前で食い止められるよう、「ヘルプシーキング」という考えを広げたいですね