大人にゆとりがなければ、探究型学習は実現しづらい

駒崎 探究型人材がたくさん育っていけば、日本全体の社会の雰囲気が楽しく変わっていきそうですよね。炭谷さんが提供されている「探究ナビゲータ講座」は、出張講座もやっていらっしゃって、eラーニングも最近始められたそうですね。

炭谷 はい。神戸に来るのが難しい方でも参加していただきやすいように、最近では東京などの他地域でも講座を実施しています。こちらは2日間の講座です。また、オンライン講座も始めました。月1回2時間ずつ計6回、レクチャーはもちろん、ロールプレイングも体験していただけます。

駒崎 他域での開催はうれしいですね。オンラインは子どもを寝かしつけた後でも受講できるのが、子育て中の身には助かりますよね。受けてみて、これは育児はもちろん、組織マネジメントにも本当に役立つなと思いました。そしてやはり、教育に携わる方にはぜひ受けてほしいと思いますね。かつての「ゆとり教育」ではないですが、文科省が旗を振っても末端がついていかなければ意味がないですから。

炭谷 学校も大事ですが、やはり大事なのは家庭です。学校の先生に多少、指示命令されたとしても、家庭でのびのびと自分らしさを表現できれば、子どもは個性を伸ばせます。避けなければいけないのは、学校でも家庭でも塾でも指示命令しかされないという育て方。子どもは打たれ過ぎて、ボロボロになってしまいますよね。

駒崎 真摯に受け止めたいアドバイスです。おっしゃる通り、教育は学校だけでなされているのではなく、家庭も教育の場であると。それ、意外と忘れがちで、つい子どもが帰宅するや「宿題しなさい」「成績はどうなってるの?」と問い詰めてしまうとか。それだけでは、子どもの良さを引き出すアプローチとは真逆になってしまいますね。

炭谷 長年スクールをやってきて感じるのは、お父さんとお母さんの気持ちは、子どものやる気にものすごく直結します。やっぱり、お母さんが強く叱ったりすると、子どもは気持ちが沈みます。だから、できるだけ親が楽しそうでいることは大事だと思います。仕事のストレスはできるだけ家庭で吐き出さないように。親自身が余裕がなくてしんどくなると、子どもにも影響します。

駒崎 そうですよね。ワンオペ育児でお母さんに余裕がないと、「ごはん食べたらお風呂入って!歯磨きして!」と指示命令するしかなくなりますよね。つくづく、子どもの教育からあぶり出される問題は、わが国の社会の縮図であり、課題であると感じますね。親も子どもも心の余裕をもって探究型の生き方を楽しむには、それが可能になる環境を皆でつくっていかないといけないことが分かりました。

炭谷 そういう意味では、デンマークの働き方は象徴的で、皆夕方4時には仕事を終えて帰宅するんですよ。それでたっぷりと夜の時間を家族と過ごし、子どもともゆっくりと対話する。テレビを見る習慣もあまりありません。日本は長時間労働で家にいる時間が少ないうえに、帰ってきてからもテレビやネットで自分を忙しくしている。時間の配分をもっと家族に注ぐことから始めないといけないと思います。大人にゆとりがなければ、探究型学習は実現しづらい。そして、親自身からまず探究を実践する。

駒崎 あるべき社会をつくっていこうという気持ちがやはり大事だということですね。内省したうえで子どもとどう接するべきか、保育に携わる身としても一人の親としても多くの学びを得られました。ありがとうございました。

(文/宮本恵理子 写真/鈴木愛子)