少子高齢化、人権、子育て支援など、今日本の社会が直面している諸問題について、NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんが各界の専門家や政治家に切り込む本連載。今回は、子どもたちを「探究型」の人間に育てるというスクールを20年以上前に始めたラーンネット・グローバルスクール代表のインタビューをお届けします。

■「上」編 探究型スクールの原点はデンマークでの強烈な育児体験

質問や提案で引き出すのが「第3の教育」

駒崎弘樹(以下、駒崎) 日本全体のお話をする前に、まず、保育事業者として「自分たちができる課題解決」について考えてみたいと思います。日本の保育園の現状といえば、一人ひとりの保育者は子どもたちの個性を伸ばしたいという志を持っていたとしても、保育士一人当たりの子どもの数が多いといった理由などから、なかなかそれが実践しにくいという面があります。僕たちが始めた「みんなのみらいをつくる保育園」という保育園では、その課題からの脱却を目指していまして、子どもに対してできるだけ指示命令はしない、質問によって興味を引き出していく、といった実践にチャレンジしています。日本の幼児教育では珍しいことのようで、やってみると現場はすごく苦労しています。つまり、子どもたちを探究型の人間に育てるには、教える・支援する側の大人も変わらなければいけないんだなと痛感しているところなんです。ラーンネットでは、教える側の大人の教育をどのようになさってきたんですか。

炭谷俊樹さん(以下、敬称略) まさに、そこが一番大事なポイントですし、難しいところですね。保育園、学校に限らず、大人が所属する企業組織も含めて、日本の社会では「上に偉い人がいて、その人の指示命令に従って行動する。言うことを聞かなければ怒られる」という構造が根付いている。僕も偉そうなことを言っていますが、指示命令系の教育で育ってきた人間で、それを当たり前と受け入れていました。そうではない教育の形もあるのだということを、デンマークで知ったわけです。僕は類型化したパターンとして、指示命令系の教育を「第1の教育」、好きなように任せる放任となんでもやってあげる過干渉を「第2の教育」、そして、質問や提案で引き出す教育を「第3の教育」と呼んでいます

 ラーンネットのナビゲータには、「第3の教育」として子どもの興味・関心を引き出す質問や提案のスキルを磨くトレーニングを繰り返し積んでもらっています。そのノウハウをまとめた講座もリアルとオンラインで提供していて、特に重視しているのはロールプレイングです。子ども役になって、指示命令をされた時と自分のやりたいことを引き出してもらえたときの感情の違いを体験していただく。実は駒崎さんにも受けていただいたのですが、子ども役がすごくお上手でしたね(笑)。

駒崎 「これをやりなさい」と一方的に言われたときは本当に悔しくて。確かに、すごく意識が変わりました。僕が経営者として社員に接しているときの普段の言い方についても、気づきと反省を得られましたね。つい「こうしてよ」と一方的に言ってしまって、「何でやってないの」と問い詰めてしまったりするけれど、指示命令で言われたらそりゃモチベーション下がるかもしんないよな、とか(笑)。企業で人を束ねる立場でもぜひ身に付けるべきスキルだなと感じました

炭谷 そう思います。難しいですが、トレーニングを積めば確実に身に付くスキルです。

駒崎 しかし、なぜここまで僕たちが「第1の教育」に染まっていたかというと、産業構造の前提があったと思います。大量生産・工場労働をメジャーとする第二次産業で稼ぐ国だった時代の名残りが、「偉い人の言うことを一斉に聞いて、忠実に守る」という教育モデルだった。でも、これからはサービスや知識産業が国の稼ぎ頭になる時代であり、稼ぎ方が変われば、求める人材も変わる。そこで、文科省も大きく方向転換をし始めたということですね。ここで改めて、その方針転換のポイントをおさらいさせていただけますか?