少子高齢化、人権、子育て支援など、今日本の社会が直面している諸問題について、NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんが各界の専門家や政治家に切り込む本連載。今回は、子どもたちを「探究型」の人間に育てるというスクールを20年以上前に始めたラーンネット・グローバルスクール代表のインタビューを上下2本の記事でお届けします。

出るくいはどんどん伸ばす

駒崎弘樹(以下、駒崎) 炭谷さんは20年以上前から大変ユニークな教育を提供している先人として、僕が長年リスペクトしてきた方です。まず、これまでのご活動についてお聞かせいただけますか。

炭谷俊樹さん(以下、敬称略) 「探究型の人材育成」をテーマに、下は3歳の幼児から上は50代のビジネスリーダーまで、幅広い年齢を対象に教育を提供する活動を行っています。子ども対象のほうから説明しますと、1996年に神戸の六甲山に立ち上げた「ラーンネット・グローバルスクール」を運営していまして、主な対象は小学生です。自分で考え、選択し、自立的に行動して自分の人生を切り開いていくという人材育成を目標に据えて、22年間やってきています。「探究型の人材育成」は当初は見向きもされなかったのですが、だんだんと世間から注目されるようになって私の活動も広がっていきまして、2010年からは神戸情報大学院大学の学長に招聘され、IT技術を社会に生かす人材育成でも探究型教育を実践しています。当大学はJICA(国際協力機構)との提携を機に留学生が増えまして、今では140人いる学生のうち104人が留学生です。26カ国から来た学生たちが「タンキュウ、タンキュウ」と言いながら学んでいるんですよ(笑)。

駒崎 その他、企業での人材育成もサポートされているんですよね。まさに全方位での教育者であると。特にラーンネット・グローバルスクールはユニークな取り組みだと思うのですが、これはつまり、どういった位置付けの学校になるのでしょうか?

炭谷 無認可のスクールです。文部科学省下の義務教育の公立校ではないので、教科書もカリキュラムも独自のもの。

駒崎  無認可で小学校って運営できるんですか?

炭谷 認可を取っていないので「学校」とは呼べないんです。だから、「スクール」という名前なんですね。補助金は一切ない代わりに縛りもない。教員免許も必要なく、うちでは子どもの学習を側面支援する立場を「先生」ではなく「ナビゲータ」と呼んでいます。ある意味、やりたい教育を好きなようにできるという運営形態ですね。

駒崎  なるほど。例えば、うちの子は小学校2年生なんですけれど、「炭谷さんの学校に通わせたいな」と思ったら、希望して学費を納めれば通えるということでしょうか?

炭谷 そうですね。ただ、今はおかげさまで全国から志望者がいらしていて、毎年7人の定員を上回る応募をいただいています。

駒崎  どんな子がその7人枠に入るんですか?

炭谷 一人ひとりの個性を伸ばすことを重視しているので、「こんなタイプです」と特定できるイメージはないのですが、あえて言うならば「突出した何かを持っている子」でしょうか。普通の学校だと削られたりたたかれたりしがちな特徴を持っている子が、のびのびと興味・関心を広げられる場でありたいと思っています。出るくいはどんどん伸ばす。最近は“探究心爆発”という言葉をよく使っています。もともと子どもが持っている探究心を押さえつけるのではなく、できるだけ引き出しちゃえと。例えば、電車が好きな子がいたとして、国語の時間に電車の話を延々し始めたら、普通の学校だと先生に怒られると思うんです。うちだったら、「そうか。電車が好きなんだね」と受け入れて、どんどん話してもらいます。好きな電車がきっかけで、機械の構造を知ったり、地名を覚えたりと、様々な学習を広げていくという考え方が探究型教育です。一人ひとりの個性・好奇心・好きなことを、自由勝手にやっていい時間をつくっています。みんな一斉に漢字の練習をする、といった時間は少ないです。

マイナスをゼロ化することにエネルギーをかけている

駒崎  めちゃくちゃいいですよね。子どもを小学校に通わせ始めて感じたのは、「オレの時代とほとんど変わってないじゃん!」という衝撃だったんです。時間割に沿って同じ授業を一斉に聞いて、先生の話を聞いて、時間内にやることも全員一律で同じ。そこから外れると居心地が悪くて、給食も「時間内に全部食べなさい」。その子の良さや個性を伸ばすというより、マイナスをゼロ化することにものすごいエネルギーをかけているように思えてならなくて。鋳型にはめられるような違和感を感じてしまうんですよね。