プロが断言「足は誰でも速くなる」

 ま、付け焼き刃っていうのは、大概ボロが出るモンで。

 運動会でのかけっこに向け、これまた運動不足が甚だしい母親ともども、体幹などを鍛えるべくラジオ体操だのなんだのに励んだ虎(仮名・息子・5歳)ではあったが、結果はものの見事な惨敗。徒競走では6人中5位に沈み、トップでバトンを受け取ったリレーでは女の子たちに連続ごぼう抜きを食らう始末。情けないやら腹立たしいやらで、その日は結構痛飲してしまった父親でありました。

 そんな折、ラジオの対談番組で思わぬ方との出会いがあった。プロスプリントコーチの秋本真吾さん。現役時代は200メートルハードルの日本記録保持者で、引退後はトップアスリートから幼稚園児まで、世代、ジャンルを問わずに「足を速くすること」の指導に当たっている御方である。

 この秋本さん、今年からは我らが阪神タイガースにも指導に赴くようになっており、息子の名前に「虎」の字をつけてしまったほどイカれたスポーツライターならば対談を喜ぶに違いない、と考えたスタッフによる忖度ブッキングだったのだろうが、何せ、運動会での惨敗の記憶が生々しい時期の対談だった。

 というわけで、お会いするや否やのわたしの一言はこんな感じ。

 「あの、足ってホントに誰でも速くなるんでしょうか」

 すると、無意味なぐらいに男前な秋本さんが爽やかに言う。

 「いろんな選手や子どもを見てきた今なら断言できます。はい、速くなります

 「ウチの息子、今、幼稚園の年中さんでかなりの鈍足なんですが、大丈夫でしょうか」

 「年中さん? あ、それはもう間違いなく大丈夫です。確実に速くなります」

 え? マジッすか? テンションが上がった。

 恥ずかしながらスポーツライターカネコタツヒト、足の速さは多分に遺伝が影響するものだと思っていた。

 ゆえに、走るのが嫌いでゴールキーパーになった父親と、やっぱり走るのが嫌いで水泳に逃げた母親から生まれた息子の足が遅いのは自分のせいか、はたまたヨメのせいかと考え、自分たちを責めるために痛飲したのである。

 トンチンカンだと笑うことなかれ。というのも、もし遺伝が関係ないというのであれば、サラブレッドにおける血統の研究はまったくのナンセンスということになってしまう。馬は哺乳類。人類もまた哺乳類。ちなみに馬は哺乳類の中では珍しい「汗をかく動物」で、そんなこともあって人間用の化粧品の実験台などに使われることもあるそうだ。

 というわけで、人間と馬、案外遠くない。なのに、遺伝は関係ないと?