人生初のおもらし。きっかけは、母親の激しい怒りだった
「漏らしたぁーっ!」
なんと、生まれてこのかたただの一度もおねしょをしたことのなかったわが息子は、母親の激しい怒りに驚愕し、完全に覚醒した状態にありながら、まさかの大失禁をしでかしてしまったのである。
ふわふわの白いカーペットの上で。
やっぱ、母親ってすごいのね。笑いをこらえながらわたしは思った。
息子に激怒したことだったらわたしにもある。こちらの目を盗んだつもりで苦手な食材をキッチンに流そうとしていたのを見つけたときは、人生でもちょっとないぐらいに激怒した。虎は大いにうろたえ、号泣もしたが、失禁はしなかった。
まるで、しなかった。
ヨメの怒りは、もちろん激しくはあったものの、そこは女性の怒りである。物理的な迫力でいったら、わたしの怒りのほうがうえだったのではないかと思う。だが、わたしの怒りは涙だけでやりすごせた虎も、母親の怒りはいなしきれなかった。いなしきれず、上から下から大放出をしてしまった。
あれは確か、夏の終わりか秋の始まりころの出来事だった。本来であればそのまま記憶の彼方へ消えていってもおかしくないエピソードだったが、秋が深まり、冬が近づくにつれ、そのことを改めて思い出すようになっている。
虎が大失禁をしでかしたのは、リビングだった。リビングには床暖房が入っている。我が家の場合、床暖房にスイッチが入ることで冬が始まる。
で、スイッチが入るたび、リビングには匂いが立ち込める。
ヨメが必死になって水拭きをし、ファブリーズをバンバンまいても、それはなくならなかった。
白いカーペットからモワーンと立ち上るアンモニア臭を嗅ぐたび、わたしは母親の偉大さと、寝小便臭の破壊力と、かつての誓いがどれほどモロいものだったかを痛感する。
こんな臭いのもとを寝室でブチまけられたら、絶対にキレてるわ、おれ。
妻のアトコメ
私が激怒したきっかけは、虎がお金を投げたから。体操をしている最中、50円玉を2つ見つけ、お誕生日にもらったゴジラの貯金箱に早く入れたいあまり体操を途中で投げ出そうとしたので、「貯金箱は後にしなさい」と言ったら腹いせに投げたのでした。ここは、お金の大切さを教えるために怒らないとならない場面でしょう。
ちょうどトイレを我慢していたところだったのか、まさかあんな展開になるとは……。このエピソードを仲の良いママ友に話そうとしたところで、「やめて~言わないで」と虎が恥ずかしそうに懇願してきた。本人、結構傷ついてたのね。ごめんごめん、もう言わないよ。って、もう既に手遅れか。