国を挙げての取り組みが注目される「働き方改革」。政府の取り組みに先駆け、昭和女子大学の八代尚宏特命教授を座長に2016年9月~2017年2月の半年間にわたり、「労働法制の変化と『働き方』研究会」が開催されました。その講義のダイジェストをこれまで5回にわたって紹介してきましたが、今回は「労働契約法」と「改正労働者派遣法」を取り上げます。

2017年11月には、大手自動車メーカーによる雇用ルールの変更のニュースが報じられ「雇用改善を促すための法改正が骨抜きにされた」と話題になりました。とはいえ、そもそもこの法改正の何が問題になっているのか。労働者派遣法は正規雇用者の今後の働き方とも不可分の関係であるにもかかわらず、残念ながらなかなか理解されていません。派遣労働自由化の背景をおさらいするとともに、望ましい派遣法改正の在り方について探っていきます。(以下、すべて八代氏 談)

なぜ「派遣労働問題」が格差拡大の象徴といわれるのか?

 派遣労働問題を語る際、枕ことばのように「労働規制緩和によって格差が拡大した」といわれますが、では派遣労働を禁止すれば格差はなくなるのでしょうか。

 「望ましい正規社員の働き方」が「望ましくない派遣社員の働き方」に代替される。これを防ぐための規制強化を、というような論調が一部マスコミではまかり通っています。
 

 上のグラフを見ると、非正規社員の割合は持続的に高まり、40%に近づく勢いで伸びています。一方、正規社員の数を示す棒線は1984年以降30年余り、全体としてほぼ横ばいで、非正規社員だけが増え続けています。この結果、失業者数も低水準でほぼ横ばいという現実です。

 不況時に大量の一時解雇を行う欧米の慣習とは対照的に、わが国では多くの企業がゼロ成長時代においても歯を食いしばって正規社員を守ってきました。このため好況期には残業を増やし、不況期にはそれを削減したり、いつでも契約更新を打ち切れる非正規社員を増やしてきました。こうした非正規社員を増やすことで失業者の増加を防いできたのです。

 名目ゼロ成長の時代に、非正規社員の増員を規制で抑制すれば、企業はやむを得ず正規社員を増やすというのは夢物語で、かえって失業者が増えることになります。