国を挙げての取り組みが注目される「働き方改革」。政府の取り組みに先駆け、昭和女子大学の八代尚宏特命教授を座長に2016年9月~2017年2月の半年間にわたり、「労働法制の変化と『働き方』研究会」が開催されました。この講義にならい、高度成長期には良く機能してきた日本的雇用慣行が、共働き世帯を標準化とする低成長時代の外部環境の変化に対応しきれなくなってきていることに関する諸問題を、第1回から第4回まで洗い出してきました。第5回は、「働き方改革」の本丸と言われながら先送りされている「解雇の金銭補償ルール」に関して一緒に考えていきます。(以下、すべて八代氏 談)

カネさえ払えば、クビ切り自由!? 解雇の金銭ルールが明確化されない理由

 「働き方改革実現会議」における総理指示から抜け落ちてしまった重要なテーマの一つに解雇の金銭補償ルールがあります。

 繰り返しになりますが長期雇用保障、年功賃金、企業別組合によって守られてきた従来の日本的雇用慣行は、企業内訓練に代表される企業内での熟練形成と円満な労使関係というメリットがある反面、人事部の裁量権の大きさ(頻繁な配置転換や転勤、慢性的な長時間労働)という代償を伴う雇用保障でした。これらが年功序列や配偶者手当など専業主婦を暗黙の前提にして成り立っていたもので定年退職制度とも不可分の関係であったことについては、これまでもお伝えしてきました。

 大事なポイントは、こうした雇用慣行がいいか悪いかの議論ではなく、高度成長期では良く機能していた雇用慣行が、低成長期という外部環境の変化に対応しきれなくなっているという点です。

 とりわけ、低成長期時代では、過去の高成長期と比べて整理解雇(リストラ)を必要とする場合が増えています。しかし、解雇の金銭補償ルールが明確ではなく、その法制化については「クビ切り自由化」と悪評ばかりが取りざたされ、労働者にとっても重要な解雇ルールの明確化が先送りにされてきました。

 日本の労働法制が抱える大きな歪みは、労働基準法には解雇手当の規定しかなく、それを事業者が支払えば、実質的に「解雇自由」の状況にある一方で、それが一般的な雇用保障の慣行を暗黙の前提とした判例法理と併存して明記されていることにあります。

低成長期に入り、高度成長期に機能していた雇用慣行を見直す必要が生じている(画像はイメージです)
低成長期に入り、高度成長期に機能していた雇用慣行を見直す必要が生じている(画像はイメージです)