国を挙げての取り組みが注目される「働き方改革」。「同一労働同一賃金」が真っ先に取り上げられ、議論されています。政府の取り組みに先駆け、昭和女子大学では八代尚宏氏を座長に2016年9月~2017年2月の半年間にわたり、「労働法制の変化と『働き方』研究会」が開催されました。これからの働き方改革とは本来、どうあるべきなのか。この課題に対し、参加者の多くが、企業の人事担当者、女性活躍推進担当者、ダイバーシティー担当者だったこともあり、各回とも活発な議論が交わされました。今回は、残業代割増率と残業時間の関係に迫ります。(以下、すべて八代氏 談)

日本の働き方では長時間労働にならざるを得ない理由

 「日本の労働時間はなぜ長いのか」――。前回記事(「『長時間労働の削減』は日本の雇用慣行を揺るがす」)では、長時間労働の原因について考えました。

 今回は労働時間規制がどんな必要があって定められているのか、また労働法規制がこれまでどんな推移を経て改正されてきたかを追っていきます。

 わが国の労働基準法は戦前の工場法(1916年施行)がベースになっています。これは年少者と女子の健康保護を促すもので、もともとは弱い立場の人間を守るための法案でした。1947年の労働基準法では週48時間、それ以上の残業に関しては割増賃金を支払うことが義務付けられていました。

 この労働基準法が1987年、「健康を害さない」「文化的生活」をうたい文句に、所定内労働時間を週48時間から40時間に削減するなどと大改正されます。文化的生活というのは実は後付けで、この背景にあったのは日米摩擦です。「日本は働き過ぎだ」と海外からソーシャルダンピングとして批判された結果、改正したという流れだったのです。その批判を受け、表向きは確かに所定内労働時間が短くなったとはいえ、残業時間も含めた総労働時間はあいかわらず2000時間を推移していたのが現実でした。所定内労働時間の代わりに、残業代の付く所定外労働時間が長くなる、事実上の賃上げになったというわけです。

2016年9月~2017年2月に昭和女子大学で開催された「労働法制の変化と『働き方』研究会」の様子
2016年9月~2017年2月に昭和女子大学で開催された「労働法制の変化と『働き方』研究会」の様子