労働時間の上限規制の強化

 本来、長時間労働のストッパーになるはずの組合が十分に機能しない。こうした状況に対応して、「ダメなものはダメだ」と、仮に労働組合が合意しても外せない上限規制を設け、違反者には罰則を適用したことが、今回の労働基準法改正の大きな成果です。

 他方で評価が分かれたのが、他の先進国では普遍的にみられる高度専門業務の労働者に対して残業時間に見合った残業代を免除する「高度プロフェッショナル制度」の創設でした。

 これは、1)「高度の専門的知識を必要とする業務に従事している」、2)「一定水準(1075万円)以上の年収を得ている」、3)「健康を確保するための措置として年間104日(週休2日制に相当)の強制休業の義務付け」などの組み合わせです。もっとも、現実には年収1000万円以上も稼ぐ労働者は、管理職も含めて、全体の4%にも満たないのが現実です(国税庁「民間給与実態統計調査2016年」)。

 この新しい制度に対して、一部マスコミでは「残業代ゼロ法案」と報じられていますが、これ自体が長時間労働自体よりも、いかに残業代を重視する人たちが多いかという証拠です。こうした高度プロフェッショナル制度における年間104日の休業日数の義務付け(年間労働時間の抑制)という「規制強化」は、一般労働者の残業時間の上限規制と同様に、従来の残業代規制よりも、労働時間の長さを、直接、抑制するための画期的な内容です。このどこが「過労死法案」なのでしょうか。

 最後に、在宅勤務(テレワーク)の法制化ですが、現行では明確なルールがないため各社とも恐る恐る手探りで試行しているのが現状で、在宅勤務の利便性を活かした働き方の事例はまだ少ないといえます。例えば、パソコンの稼働時間で実働時間を管理せずに、いまだに業務の開始時間と終了時間を上司に電話で申告するなど、プリミティブな形態で行われているのが現状です。在宅勤務の法制化が実現されれば、日本全国あるいは海外でもどこにいても働けるわけですから、女性にとっても夫の転勤などで働き方を制限されずにキャリアの幅が広がる可能性が高いはずです。この他にも、副業、兼業のルール化やワークシェアリングなど、どれも同一労働同一賃金の問題と不可分の議題が山積みです。

 次回は、「解雇の金銭補償ルールの策定と企業の対応について」お話ししていきます。

* 次回に続きます

(ライター/砂塚美穂、協力/昭和女子大学ダイバーシティ推進機構)