裁量労働制の導入がもたらしたもの

 裁量労働制という新しい概念も、この労働基準法の改正に含まれていました。裁量労働制とは、実際に勤務した時間ではなく、1日当たりの「みなし労働時間」を採用したことです。

 工場法がベースであったこれまでの労働基準法は「働いている時間の長さ」と「生産量」が分かりやすく直結していました。例えば自動車工場のラインで1時間働けば、1時間分の生産台数が約束されています。ところが、例えば新聞記者やテレビのディレクター、大学教員など裁量労働制で働いている一部のホワイトカラーの人々に限っていえば、1時間デスクに張り付いていたからといって、1時間分のアウトプットが必ずしも期待できるわけではありません。こうした特定の業務に関して1日1時間であろうが、1日12時間であろうが、1日8時間労働と「みなす」考え方が認められたというわけです。

 これにより、一見「働いている時間の長さ」と仕事のアウトプットや質は切り離されたように思われましたが、特筆すべきは日本の裁量労働制では、「深夜・休日」における割増賃金が義務付けられるため、「働いている時間の長さ」から完全に解放されたわけではなかったということです。これは労働時間に関わる強行規定です(* 「強行規定」とは、法令の規定のうちで、当事者の意思にかかわりなく適用される規定を指します)。

 やむを得ず深夜・休日になる場合も多いですが、仮に、自分の意思で「深夜・休日」を選んで勤務すれば、短時間で効率的に働く労働者よりも、それだけ給与所得が割り増しされるわけですから、不公平が生じます。

【労働時間に関わる規定】
・労働基準法の強行規定
 所定内・所定外労働、休憩時間(無給)
 残業割増賃金(平日25%、休日35%)
 月60時間超えについては50%

・週40時間、一日8時間の法定労働時間
 ⇒労働組合との書面協議で残業可
・法定残業時間上限(週15時間月45時間)
 ⇒特別条項付き労使協定で適用除外