2020年の大学入試改革を前に、中学受験においても入試傾向の変化が予測された2018年度入試。しかし、こうした動き以前に、これからの時代に求められる「思考力」を問う問題を入試に取り入れてきた難関校では、大きな変化なく、例年通り難易度の高い問題が出題されました。その中でも、「わずかな変化はあった」と中学受験のプロ家庭教師・西村則康先生が解析。2018年度入試からどんなことが見えてきたのでしょうか?

開成中の算数が易化。国語の出来で合否が分かれる結果に

「今年の中学受験は、全体的には例年通りの問題。ただ一つ特徴があったのは、開成の算数の易化です」(西村則康先生)
「今年の中学受験は、全体的には例年通りの問題。ただ一つ特徴があったのは、開成の算数の易化です」(西村則康先生)

 このページの一番下に掲載した2つの表は、男子御三家のうちの2校、開成中と麻布中の算数入試の問題傾向とその難易度を表したものです(資料提供:中学受験情報局)。男子難関中学の算数入試は、大問が3~5題と少なく、計算などの「処理能力」を問う問題と、手を動かしながら解法を考える「思考力」を問う問題に二分されます。こうした入試スタイルは従来通りで、まずはその対策をしっかりしておくことが不可欠です。

 しかし、今年は一つだけ例年と異なることがありました。

 西村先生はこう話します。

 「2018年度の難関校入試において、唯一変化を挙げるのなら、開成中の算数の易化でしょう。開成中といえば、男子御三家の中でも算数の難易度の高い学校です。特に『思考力』を問う問題は一筋縄では解けず、従来の入試であれば、算数が得意な子が有利とされていました。ところが、今年はその戦略が全く通用しなかったのです」

 「特に近年の入試では、新しいタイプの難しめの問題が続いていたため、その対策に大幅な時間を割いていた受験生にとっては、肩透かしを食らわせるような典型問題のオンパレードで、驚いたのではないでしょうか。従来なら1.8レベルの思考問題が、今年は1.25と易化(表参照)、85点満点のテストで、合格者平均点が73.9点という高さに(従来の合格者平均点は50~60点)、算数が苦手な子にとっては幸運となりましたが、算数で高得点を上げて逃げ切ろうと考えていた子にとっては、厳しい戦いとなりました」

 では、合否の分かれ目となった教科は?

 「開成中の理科・社会は例年高得点勝負です。それは今年も同じでした。となると、今年度の合否の分かれ道となったのは国語です。開成中の国語入試は記述問題が多いのが特徴です。内容は例年通りでしたが、算数の易化で点差が付けられなかった今年は、国語の点数で合否が決まったと言っても過言ではないでしょう」

 しかし、こういう見方もあります。

 「算数で勝負を懸けてきた受験生にとっては不本意な受験となりましたが、開成中の入試を長い目で見ていくと、こうした変化は5~6年に1回の割合で起こっています。というのも、開成中では毎年順番で一人の先生が問題を作成していると言われているからです。ですから、こうした変化は十分にあり得るのです」

 「逆に、以前から年によって出題の傾向や難易度が大きく変わることがたびたびあるという点では従来通りとも言えます。それは、『うちの学校を受けるくらいの子なら誰でも入ってくれていいんだよ。本当に力のある子なら、どんな問題が出ても大丈夫だよね』という学校側のメッセージが読み取れます。あえて傾向を固定しないことで、どんな問題が出題されても対応できる力を求めているのです」

 「つまり開成中の受験では、4教科オールマイティーで解く力が必要ということです。どんなに難しい問題でも、易しい問題でも確実に解く。そのためには開成中の過去問だけでは足りません。難しめの問題に対応するには、灘中の一日目の過去問を、易しめの問題に対応するには、芝中レベルの過去問にも触れ、幅広く対応できるようにしておきましょう」

(出典:中学受験情報局)
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