2020年度から実施される「大学入試改革」に伴い、中学受験においても入試傾向の変化が予想された2019年度入試。実際、大きな変化はあったのでしょうか? 本連載でもおなじみの西村則康先生と、西村先生が代表を務める中学受験のプロ家庭教師集団・名門指導会の先生たちが、大手塾の入試分析会に先駆けて、難関校の入試問題を自ら解き、その中身を分析しました。そこから見えてきたものとは?
関東は算数が易化 国語が得意な子が有利な結果に
2020年度から実施される「大学入試制度改革」を前に、ここ数年、私立中高一貫校の入試内容の変化が注目されています。昨年の2018年度入試では、開成中の算数が極端に易化したことが話題になりましたが、その他の学校では大きな変化は見られませんでした。
ところが、「2019年度入試では、関東でも関西でも大きな変化が見られた」と西村先生は話します。
「まず、関東においては、例年より算数が全体的に易しくなりました。これまで見られなかったような基本問題が出され、塾などで『捨て問』(難し過ぎて太刀打ちできない問題)といわれるレベルの難問がかなり減ったという印象を受けました」
「とはいえ、覚えた手法を機械的に当てはめれば解けるような問題ばかりが出たわけではありません。問題の状況を丁寧に読み取り、それに基づいて図を書いたり、整理をしたり、類似の設定を想起して適用してみたりといった、算数の問題を考える上で本来当たり前のことを当たり前にできれば解きやすかったというレベルです。正しい学習や思考する姿勢が評価されやすい問題だったと思います」
大学入試改革では「思考力」が重視されると言われていますが、この思考力と今回の算数入試の易化は、何か関係しているのでしょうか?
「難関校では、大学入試改革で思考力が注目されるずっと以前から、思考力を求める問題を出題していました。ですから、大学入試改革に合わせて易化したという見方はしていません。むしろ、難関校で思考力を問う問題が出ると、翌年には塾のテキストに掲載され、解くテクニックを伝授される。すると学校はその翌年にもっと難しい問題を出して……といった“いたちごっこ”が臨界点に達してしまい、そうではなく原点に戻って、基礎を重視する動きが各学校で見受けられた入試でした」
「そこには、年々塾のテキストが分厚くなることで、一問一問をじっくりと考える余裕がなくなり、よく分からないままの暗記に陥りやすい現状の中学受験を見直していきたいという学校側の思いがあります」
しかし、塾では基本も一通り押さえているので、2019年度の算数入試は高得点勝負で点差がつかず、他教科、とりわけ国語入試の点差で合否が決まるという結果になりました。というのも、各学校の国語入試がとても難しかったのです。
「特に難しかったのが桜蔭中です。桜蔭中の国語は例年難問が出題されますが、今年は早慶の大学入試レベルに匹敵する内容でした。また、駒場東邦中の国語入試といえば、例年なら少年が主人公の物語文が出題され、等身大の“子どもなりの気持ち”が問われていましたが、今年も主人公は少年だったものの、大人の視座から少年の心情を客観視することが要求され、12歳の子どもにはかなり難しかったと思います。一方、論説文では、国語入試でありながら理科や社会の要素を盛り込んだ公立中高一貫校の適性検査を思わせるような問題を出す学校も増えていました」
このように、関東では算数が易化したことによって、国語が得意な子が有利な入試となりました。
開成中:家出をした少女の心情変化
渋谷教育学園幕張中:寺田寅彦の文章から出題
駒場東邦中:難民と移民の違いが分からないと読めない文章
栄光中:女子学生の成長物語