家庭の中の非言語的なメッセージを、子どもはまっすぐ受け止めている

 僕の場合を振り返ると、母が背中でいろんなことを教えてくれていました。祖母が栄養士だったことも大きいと思います。いくつかの野菜を並べて、「この中で緑黄色野菜はどれ?」と祖母から聞かれて答えたりしていました。赤いパプリカは緑でも黄色でもありませんが、カロテンが多く含まれるので緑黄色野菜なんですね。そんないろんなことを教えてもらって、今でも食事バランスに何気なく気を付けるようになりました。

 以前、人生を通して自分の「Can(できること)」と「Want(やりたいこと)」が重なっている大人を対象に「子どものころに読んだ本」というテーマで調査をしました。すると、「家にある本は何でも勝手に読んでもいい」と言われていたケースがとても多いという特徴がありました。例えば、小学生のころから『ゴルゴ13』シリーズを読んでいた人もいました。殺人やベッドシーンもテロシーンもたくさんありますが、「すごく面白い」と思っていたそうです。

 つまり、家庭教育といっても、言葉で何かを教えるだけではなく、環境的に親が自分が面白いと思うものを家の中に散りばめておくだけで違うと思います。親がどういうふうに生きているか、どういう環境で何を意思決定したかといった、非言語的なものがすごく大きな位置を占める

 例えば、「英語を学べ」と口では言いながら、親御さん自身は全然できないというのでは説得力はありません。プログラミングもそうです。子どもも言葉だけじゃなくて非言語のサインを受け取っているので、お父さんが本を好きで読んでいるか否かも分かりますし、お母さんが物事を文章にまとめて情報発信をしたりしていれば、子どもも自然にそれを見て学ぶでしょう。口で「本を読め」「勉強しろ」と言って、子どもがそうなれるかというとそれは大間違い。親の生き方、そのものが子どもに伝わっていくと思います。

 やっぱり、一番大事なのは、親が楽しく生きる、人生を楽しむということ。

 口で何か言うよりも行動で示したほうがいい。「お母さん、ちょっと留学してくる」「え、なんで行くの?」「お母さん、アートを勉強したいんだよね」「すごいね、お母さん」とか、何でもいいんです。「難しくてこんなこと、ママはできないよ」とばかり言っていたら「私にも難しくてできない」となってしまいますから。親自身が楽しんで、親自身が情報アンテナを広げて、いろんな友達と楽しい時間を過ごしたらいいし、そうしたら子どももそういうふうにするのではないかな、と思います。

(取材・文/日経DUAL編集部 小田舞子、撮影/鈴木愛子)