「もっと残業して働きたい」という社員はこう説得する

 「残業をさせない」という会社の方針は「もっと働きたい」という社員にとっては、ありがたくない話だ。一般的によくあるのは、「残業代を稼ぐため」という声だが、SCSKでは現在、残業の有無にかかわらず、一律20時間分や34時間分の残業代を予め支給する手当を導入しているので、それは当てはらまない。だが「勉強のために、もっと長い時間仕事をしたい」という悩みを抱える社員はいるという。

 「そういう社員には『自分の本当の仕事と、自己研鑽を見極めろ』と伝えています。例えば、SCSKの一日の就業時間は7時間30分ですが、『自分の仕事を6時間で終わらせられれば、1時間半は自己研鑽のために使えるだろ』と。お客様のところに行くときは、いつも改善提案を出しまくれ、とも伝えています。改善提案を出せるということは自分が常に前もって仕事を準備できているということ。それで空き時間が生まれたら、自分の勉強に使ったらいい」

この業界はノウハウが財産、とにかく辞めないでほしい

 谷原さん自身は、子育てにあまり関わってこなかった世代だが、「一連の活動を通じて、自分自身の中にあった『何歳までは子どもは母親が面倒を見るもの』という考えもなくなりました。男性も子育てに取り組むべきです」と話す。SCSKの男性の育休取得率は83.1%でとても高い。

 「若手社員はほぼ共働きです。イクメンも多いですよ。まず、ライフイベントは男女で一緒に取り組んでほしい。なぜかというと男女とも仕事を継続してもらいたいから。この業界はノウハウが財産。とにかく社員には辞めないで会社を助けてほしい。そのためにできることは全部やりたいと思っています。女性社員が安心して職場復帰できる環境を整えたり、プログラムをたくさん用意したりしています。男性社員だって、奥さんが育児ノイローゼになったら安心して仕事できません。夫に時間の余裕があれば、奥さんを助けることもできる」

 「ITの会社なので、ITとしてできることは理解している。介護や子育て中の社員もリモートで働けるような仕組みを作るのは、それこそ得意分野でもあります」。SCSKではリモートワークを推進しているが、特徴的なのは、まず全社員の働き方を変えようとしている点だ。育児や介護など事情がある人を特別待遇するのではなく「みんなで柔軟な働き方に変える」という手法は、結果的にみんなの幸せにつながる。

 「IT企業は社員すなわち人材こそ財産なんです。社員が健康でイキイキとやりがいを持って働ける施策が必要。社員がイキイキして幸せであることは、一流会社の最低条件だと思っています。その結果として、製品やサービスの品質が向上して、引いてはお客様満足度の向上につながる、と考えています」