通勤電車の特急指定席を取って育児日記を記録

 「ずっと哲学を学んでいたからか、人間というものにとても興味があります。だから、赤ちゃんを観察する絶好の機会を逃したくなかったんです。妊娠が分かったと同時に妻に相談することもなく育休取得を決めていました」と、よく見聞きするパパ像とは一線を画す川野さん。「大学時代に知り合った」という妻も、もちろん川野さんのその思考をよく理解しているから、夫の育休取得に全く驚かなかったという。

 「赤ちゃんは面白いですね。否定性がない。ただそこにある、そういうまっさらな状態は面白いと日々感じています。何の価値観にも縛られていない存在がいるってことが不思議ですね」と、独自の視点でわが子を観察している川野さん。育休中から日記を書き続け、そのボリュームは既に20万字を超えているという。

育休中からわが子の育児日記を書き続けている川野さん。復職後は朝の通勤時間帯を利用して、特急の指定席を取って書いているという。写真はイメージ
育休中からわが子の育児日記を書き続けている川野さん。復職後は朝の通勤時間帯を利用して、特急の指定席を取って書いているという。写真はイメージ

 「育休復帰後は、さすがに忙しくて毎日は書けないのですが、週に2回くらいは書くようにしています。通勤時間を利用して書くことが多いですね。混雑している車内では落ち着いて書けないので、特急の指定席を取り、そこでパソコンを広げてエクセルに書き込んでいます」。育児日記にかける情熱も本気そのものだ。

育休取得のため、同僚の分まで仕事を整理

 育休を取得する間の業務の引き継ぎについては、8カ月かけて周到に準備をした。

 「2017年12月に妻の妊娠が分かって、翌年2月には上司に育休取得について相談をしました。実際に育休を取得する10月まで準備期間がたっぷりあったのがよかったのかもしれません。自分が不在の間は、派遣スタッフに来てもらえることになったんです」

 派遣スタッフが来るまでの間、川野さんは、自分や同僚の業務のうち、定型化できるものはできるだけ定型化して、それを派遣スタッフに担ってもらえる態勢を整えたという。「そしてその分、業務が軽くなった職員に、定型化できないような自分の仕事を引き継いでいきました」。自分のみならず、同僚の仕事まで整理して、誰にも無理を強いない体制を構築したということだ。準備期間に余裕があったからこそできる、美しい引き継ぎプランといえるだろう。

 この育休前の入念な仕事の整理は、復職後のパパ業との両立においても功を奏しているという。

 「実はそこまで予測できていなかったのですが、復職したら仕事が楽になっていました。自分に属人化していた仕事を、他の職員にも担ってもらえるようになったからです。だから、子どもの病気など緊急時で休まなきゃいけないときも安心して任せることができます」