健康総合企業のタニタは、希望する従業員を雇用契約から業務委託契約をベースとした「個人事業主(フリーランス)」に切り替える「日本活性化プロジェクト」という仕組みを2017年から導入した。個人が自立的に働き、稼ぐ力を身に付けるという狙いをもったこの取り組みについて紹介する。

<タニタ企業リポート>
前編 タニタ 活動量計が社員証、健康意識を高める仕組み 
後編 タニタ 個人も会社も成長するための独自の働き方改革 ←今回はココ

 働く人が、個別の事情にあった働き方を選択できる社会を目指す「働き方改革」。少子高齢化による労働人口の減少で、生産性の向上や所得格差の是正は日本の企業にとって喫緊の課題だ。

 残業時間制限が注目されがちな働き方改革について、タニタの谷田千里社長は、「過重労働は是正しなければならない」としつつも、「そこばかりがクローズアップされると働き方改革の本質が見失われるのではないか」との危機感を持っているという。

 個人のモチベーションを低下させてしまっては、企業の成長はおろか個人の成長もありえないのではないか。真に働き方を変えるなら、会社と働く人の関係そのものを見直すべきだ――。こうして生まれたのが、2017年に同社が始めた「日本活性化プロジェクト」という大胆な働き方改革だった。その一期メンバーとしてプロジェクトに参加した、開発部主席研究員の西澤美幸さんに話を聞いた。

働きたい人が成果を追求して主体的に働ける仕組み

 「日本活性化プロジェクト」の概要を紹介する。

 プロジェクトの対象となるのは、タニタ本社に所属する社員のうち、手を挙げて参加の意思を示した人。会社との話し合いで合意すれば、当該社員は退職して個人事業主となり、新たにタニタと業務委託契約を結ぶ。その上で、これまで社内で従事していた仕事を「基本業務」として引き受けながら、他社の仕事にも働く場を広げていけるという仕組みだ。報酬は、社員時代の給与と賞与をベースとして、相談の上で決定する。契約期間は3年で1年ごとの更新。個人事業主に移行した後の収入の安定を確保するため、当初は社員時代の業務を基本業務として契約するが、更新後の仕事の割合は本人次第だ。もちろん、引き続きタニタの仕事をメインにすることもできる。

 メリットは大きく2つ。1つ目は、会社員という立場ではチャレンジできなかったさまざまな仕事に取り組めること。2つ目は手取り収入が増える可能性があること。同社では、24名が個人事業主に移行して働いており(3月末時点)、これはタニタ本社の社員の約1割に当たる。標準的なケースの場合、平均では2割強の手取り増という。いわば「会社員とフリーランスの良いところ取り」だ。

開発部主席研究員の西澤美幸さん
開発部主席研究員の西澤美幸さん

 西澤美幸さんは、同プロジェクトの一期生として参加した。一社員として話を聞いた当初は、自分ごととして捉えることはできず、「若い子のチャンスが広がればいいな」と思っていたという。

 当時、西澤さんは40代後半。世界初の乗るだけで体脂肪率がはかれる体脂肪計開発に携わった。タニタ開発部で信頼を集めており、自身も仕事に没頭していた。一方で、38歳での出産を経て仕事と子育ての両立に奔走して来たことから、心と体は疲弊し、ホルモンバランスの変化と相まって自他ともに認める「下り坂」の状態にあったという。