新しい働き方が生まれるには大きく2つの潮流がある。1つは従来の組織内で新たな制度などをつくる流れ。もう1つは、スタートアップなどで見られる、最初からこれまでの「日本型」とは異なる組織をつくり、根っこから新しい働き方をつくる流れ。今回登場するダイヤモンドメディアは後者であり、2007年の創業から「ホラクラシー経営」を取り入れ、振り切ったスタイルで注目を集めてきた。13年間の組織運営のメリット・デメリットを踏まえて、次の段階へ移ろうとしている同社について2回に分けて紹介する。(*取材内容は2月19日時点のもの)

新型コロナウイルス感染拡大を背景に、多くの企業で、リモートワークの利用が急速に広がっている。「一歩先を行く」同社の斬新な試みの軌跡は、「コロナ後」に参考になる取り組みといえそうだ。

<ダイヤモンドメディア 企業リポート>
【前編】代表取締役に立候補した3歳児ママ 意欲育む組織 ←今回はココ
【後編】振り切った斬新な組織で13年 経験から見えた改善点

ボードメンバーとしてCFOに就任

 3歳児のママである中根愛さんは2019年10月から、不動産関連IT事業を行うダイヤモンドメディアCFO(最高財務責任者)として、同社の経営チーム(ボードメンバー)の一人となった。

 中根さんは昨年5月、自ら代表取締役に立候補した。

 「立候補」とは何か。その前に、一般的な会社組織のイメージとはかなり異なる、同社の革新的なスタイルから説明する必要がある。同社が掲げてきた考えは、上司も部下もないフラットな組織をつくる、情報格差をなくすため財務情報や給与などもすべてオープンにする、「個人の自由」をベースにする(会社は人を管理せず自分自身が管理する)、一人ひとりが自然な形で組織に関わって最大限の力を自発的に発揮することで組織を発展させる、など。

 そうしたスタイルを同社ではこれまで「ホラクラシー経営」や「自然(じねん)経営」と呼んできた(詳細は後編)。このような組織においては、社長や役員の役割も不要だが、法律上の必要性があるため、代表取締役・取締役を毎年選挙で決める、というルールを実施(厳密には、投票後に社内での検討と株主承認を経る。2020年以降は未定)。斬新な経営手法が耳目を集め、社員20人前後という小さな組織にもかかわらず、働き方関連の賞を受けるなどさまざまな方面から注目を集めてきた

 中根さんは立候補した理由についてこう振り返る。「入社して8年、主に経理を中心にバックオフィス業務をやっていました。正直なところ『会社経営』をしたいと考えていたわけではないのですが、会社が今後どうあるべきかを真剣に考える機会があり、その中で今、私に求められていることは何か、私にできる役割は何か、という視点で考え、立候補を決めました。子育てと両立することについては、夫は非常に協力的ですし、実家も近いので、どうにかなるだろうという気持ちでした」。全く気負いのない笑顔で、中根さんはそう話す。

 結果的に中根さんは代表取締役にはならなかったが、2019年10⽉から、これまでとは異なる、新しい代表取締役CEOも含めた5⼈のボードメンバーによる経営体制を作ることになり、中根さんはその⼀⼈である、CFOに就任した。「社内全体を見るコーポレート部門をずっとやってきた実績と、立候補した意欲を買われました」。子育て期に女性のキャリアが断絶したり、成長意欲を阻害されたりしてしまう残念な例も世の中にはまだまだ多いが、中根さんは「キャリアをグラフ化するとすれば、この会社に入って以降、ずっと右肩上がりだと感じています」と話す。

 同社は2019年まで、フルフレックスタイム制、フルリモート可という働き方を採用してきた(2020年から一部変更点あり。詳細は後編)。中根さんの妊娠・出産以前から、特別の理由なく誰もが当たり前にリモートワークできる環境が整っていた。

ダイヤモンドメディアCFOの中根愛さん
ダイヤモンドメディアCFOの中根愛さん