日経DUALの「共働き子育てしやすい企業グランプリ2017 」で23位となった日本HPは、パソコンやプリンターを製造・販売する米国系企業。2015年に親会社であるヒューレット・パッカードが分社したことに伴い設立され、新たな組織としてダイバーシティ推進を加速させてきた。場所と時間にとらわれない柔軟で自律的な働き方を推進し、生産性の向上を目指す中、仕事と子育てを両立しやすい環境の整備にも力を入れる同社の取り組みについて、ママ管理職とその元部下のイクメンパパ、人事担当者に取材。上編・中編・下編に分けてお届けする。上編の今回は、小学校6年生と3年生の子どもの母で、3年前に管理職に就任した沼田綾子さんにご登場いただく。

<日本HP取材リポート>
【上】 ママ管理職 部下の妻の視点に立てるのが強み ←今回はココ
【中】 毎朝食と週末主夫こなす日本HPのパパ社員
【下】 両立しやすい社内風土、地道なアナログ手法で醸成

チャンスはいつ巡ってくるか分からない。臆せず飛び込むことに

Eコマース事業本部コンシューマービジネス本部本部長の沼田綾子さん
Eコマース事業本部コンシューマービジネス本部本部長の沼田綾子さん

 「日々上司やメンバー、家族に助けてもらいながらなんとかやっています」と話す沼田さん。3年前にマネジャーに就任した。2001年に日本HPの前身であるコンパックコンピュータに入社。店頭マーケティングやEコマースビジネスなどを経験し、現在はコンシューマービジネス本部の本部長として部下6人を率いる。

 もともと、管理職を目指していたわけではなかった。「子どもが小さいうちは、目の前のことで精いっぱい。その先のことを考える余裕すらありませんでした。でも、目の前のことを一生懸命こなしていたら、たまたまチャンスが巡ってきたんです」。

 2児を育てながらマネジャー職を担うことに不安はなかったのだろうか。

 「もちろん不安はありました。しかも、マネジャーを打診された当時、上の子は小学3年生。3年後の中学受験を目指して、準備を開始しようと思っていたタイミングだったんです。初めての中学受験、何がどう大変なのか見当もつかない状態で、新しい仕事や役割を担うことに自信が持てませんでした

 そのタイミングで女性向けのリーダーシップ研修の存在を知り、興味を持った。この女性向けのリーダーシップ研修は異業種から複数の企業が共同で企画、運営するもので、シンポジウムやフィールドワークなどを通して、自分らしいリーダーシップのスタイルを見つけ磨いていく年間プログラム。自ら手を挙げ上司の承認を得た中で、選抜された社員が受けられるという。

 「研修で他の会社の女性管理職の方の話をたくさん聞くことができました。皆さんそれぞれ苦労もされていたけど、『管理職は学びが多く、新しい仕事の楽しさを感じることができる。引き受けてみて本当によかった』とおっしゃる方が多くて」。この研修が、沼田さんが覚悟を決める後押しになったという。

沼田さんが参加した「異業種ビジネスリーダーシップ塾」。 これは、自分らしいリーダーシップのスタイルを見つけるための女性社員向けの研修。複数の異業種企業が合同で、その時代とニーズに寄り添いながら企画・開催している、2018年度の参加企業はサッポロホールディングス、スリーエム ジャパン、DXCテクノロジージャパン、トランスコスモス、日本HP、日本ヒューレット・パッカード、古河電気工業、丸井グループ含む10企業で実施(五十音順)
沼田さんが参加した「異業種ビジネスリーダーシップ塾」。 これは、自分らしいリーダーシップのスタイルを見つけるための女性社員向けの研修。複数の異業種企業が合同で、その時代とニーズに寄り添いながら企画・開催している、2018年度の参加企業はサッポロホールディングス、スリーエム ジャパン、DXCテクノロジージャパン、トランスコスモス、日本HP、日本ヒューレット・パッカード、古河電気工業、丸井グループ含む10企業で実施(五十音順)

 「特に女性はタイミングを計りにくい。子どもをいつ生んで、いつからいつまで育休を取って、と綿密に計画したところでうまくいくことなんて、なかなかないですよね。どんなタイミングだとしても、ステップアップのチャンスを与えられたら、勇気を出して踏み出すことが大事だと、その研修を通して気が付きました。逆にいうと、万全に準備を整えたところでそのチャンスがタイミングよく降ってくるかは分からないですから」。沼田さんから発せられる力強い言葉からは、自らの選択にみじんの後悔も感じられない。

 「研修で管理職の女性の先輩方の話を聞いて、時間的な大変さより、数字責任などへのプレッシャーなど、メンタル面の大変さに対して覚悟を決めなければいけないことが分かりました。でもどんな立場でも仕事にはプレッシャーが付き物ですし、やってみなければ分からない部分じゃないですか。だから、思い切って飛び込んでみたんです」