2002年から神奈川県鎌倉市に本社を置く面白法人カヤック。地域の魅力を生かして発展に貢献する鎌倉資本主義を掲げ、鎌倉で働く人、住む人を増やし、鎌倉らしいワークスタイルを確立するさまざまな事業を展開している。その一つが、鎌倉に本社を置く同社と、鳩サブレーの製造販売で知られる豊島屋(鎌倉市)が合同で開園した「まちの保育園 鎌倉」だ。後編は、園の立ち上げを任されたママ社員に、自身の働き方や育児への影響を含めて話を聞いた。

<カヤック取材レポート>
【前編】 社員に「職住近接」を推奨 地域との共栄を目指す
【後編】 時短勤務のジレンマを乗り越え、保育事業で活躍 ←今回はココ

やっているのに思うような評価が得られていないジレンマ

 植杉佳奈恵さんがカヤックに入社したのは2011年。大学を卒業後、商社に入社。2度の転職を経て、同社では労務を担当してきた。商社時代は、対応する携帯電話でメールのやり取りやウェブページの閲覧などができるiモードのコンテンツ制作に従事。ものづくりの面白さに目覚め、週末に専門学校へ通って、Webデザイン会社のデザイナーに転職した。このころ、結婚。しばらくは両立していたが、常に多忙で徹夜も多かったことから、ほどなくして2度目の転職を決意した。

 「3社目は、外資系人材派遣会社の事務職でした。家庭と両立するのには良い環境だったのですが、アジアの拠点を集約するという動きがあって……。これからどう働いていくべきか考えていたときに、夫が『鎌倉に面白そうな会社があるよ』と。それがカヤックだったんです。なんの脈絡もないように見えますが、それなりに動機とタイミングとご縁によってつながってきたキャリアだと思っています」

 同社に入社してから妊娠が分かり、出産。産休育休を経て、時短勤務で復職した。時短勤務は、当然ながら残業しないことを前提とした勤務形態だ。植杉さんも、残業なしで早帰りできる代わりに、出産前に支給されていた残業代がなくなった。

 しかし、時短勤務だからといって、仕事の責任が軽減されるわけではない。周囲の情報を完璧にキャッチアップし、的確なアウトプットをするのに妥協したくなかった。ときには仕事を早く切り上げ、保育園にお迎えに行き、子どもが寝てからパソコンを開いたり、資料を読み直したりと、通常勤務時間の枠に捉われず自己の裁量で所定労働時間内の労働を行っていた。

 「時短という制度を利用する以上、給与が下がるのは当然のことかもしれません。でも、産休前とほぼ変わらない仕事をしていても、勤務時間で計られて評価されてしまう側面があるのがもどかしくて。制度の恩恵を受けている面もある一方で、やりたいことが思うようにやれない、やっているのに思うような評価が得られていない、というジレンマに悩んでいました」

「まちの保育園 鎌倉」の立ち上げを担当した同社労務の植杉佳奈恵さん
「まちの保育園 鎌倉」の立ち上げを担当した同社労務の植杉佳奈恵さん