日経DUALの「共働き子育てしやすい企業グランプリ2017」で特別奨励賞に輝いたピジョン。施策についての詳報「ピジョン 経営理念は『愛』 従業員が一番大事」に続いて、取締役専務執行役員の赤松栄治さんにお話を伺う。「社員を大切にする」という当たり前に見えて実現が容易ではない目標に、どのように取り組んできたのか、その秘密に迫る。

「社員が一番大切」と言い切ることから生まれるもの

「ピジョンの人事施策は『施策』ではなく、社員に気持ちよく働いてもらうための『手段』」(取締役専務執行役員の赤松栄治さん)
「ピジョンの人事施策は『施策』ではなく、社員に気持ちよく働いてもらうための『手段』」(取締役専務執行役員の赤松栄治さん)

 「社員に気持ちよく働いてもらうことが何より大切。売り上げや利益はその結果としてついてくるものです」。育児・マタニティー用品の製造・販売などを手掛けるピジョンの取締役専務執行役員の赤松栄治さんは、そう言い切る。

 「当然、お客様や株主様は大切ですが、歴代社長が常に内外で言ってきたのが、一番大切なのは社員だということです。社員が働きやすく、力を発揮できる環境を整えることが、ひいては会社の永続的な発展につながると考えています。社員の皆さんが働いてくれるから経営が成り立っているわけですし、その結果、株主様に配当することもできます」

 言われてみれば当たり前のことだが、実際のところ、世の中には社員が軽んじられている企業は少なくない。その“当たり前”を、ピジョンは実直に行ってきた。それが端的に伝わるのが、社員の声をきっかけに作られる、数々の人事施策だ。「施策ありきで人事施策を作っても利用されなければ意味がありません。社員の現実の声があって、それを解決するために後追いで制度ができる。『施策』ではなく、社員に気持ちよく働いてもらうための『手段』なんです」

最初に「施策ありき」ではなく「社員の声ありき」

 社員の声から制度ができた一例が、不妊治療を受ける目的でつくられた、在籍中、通算24カ月間休職することができる「ライフ・デザイン休暇・休職」である。「『不妊治療に専念したい』と言って辞めた女性社員が過去に何人かいました。本当に申し訳ないことをしたと感じています」と赤松さんは振り返る。そうした事例が以後出ないよう、2015年にこの制度ができた。原則2回まで分割取得できる。さらに、不妊治療だけでなく、里親(養子縁組)希望の社員にも適用される柔軟さを備えている。

社内ではお互い「納得して信頼する」レベルの関係性を構築

 これらの制度を考える際に社員の声を聞く必要がある。とりわけ妊娠・出産に関する話は、聞きだすのが難しいだろう。ピジョンは、社員が大切にするべき「基本となる価値観」の一つに「コミュニケーション・納得・信頼」を掲げている。「『コミュニケーション・納得・信頼』は、4代目社長で現・代表取締役会長の大越昭夫がずっと使っていた言葉です。大越は今につながる人事制度の改革を行いました。上辺だけのコミュニケーションではなくて、納得して信頼する。この上司のためだから、この部下のためだから頑張る。このように『信頼する・信頼される』レベルの関係性を持って仕事しないと成果は出せないと考えています」

 「コミュニケーション・納得・信頼」の考え方を含めた内容は、2014年に「Pigeon Way」としてまとめられた。歴代社長が大切にしてきたことを企業の指針として示し、国内外に関わらずグループ全社に浸透させている。社員は、仕事を通して「Pigeon Way」を具現化した経験を「Pigeon Way Story」としてまとめ、半年に1回提出する。その中で特に全社内で共有したい「Pigeon Way Story」を選ぶ選考会もあり、共有したいStoryは社内ポータルサイトでも公開される。

 人事総務本部 人事総務部 人事グループマネージャーの若山直樹さんは、社内のコミュニケーションについてこう話してくれた。「事業内容が子育て関連なので、妊娠や出産という話題に対して、男女を問わず抵抗感がないのも、コミュニケーションがうまくいっている一つの要因かもしれません。ただ、信頼関係がなければ悩みを打ち明けようとは思えません。当社には、社員同士が本音でつき合える風土があるのは確かだと思います」。育児用品を扱う会社であるということを最大限に利用しつつ、「社員一人ひとりを大切にする」というトップダウンの姿勢が社内風土を醸成し、同社を「共働き子育てしやすい企業」にしている。