グローバルで勝つには個人の生産性向上が大切

 「私自身は1982年入社です。どの会社もそうだったと思いますが、いわゆる『24時間働けますか』の世代。実は子どもが小さい頃は子育てにはあまり関わってこれず、今思うと申し訳なかったです。当時と現在では、社員数は大きく変わっていないのですが、売り上げは単体で4倍ほどになっています。歴代社長は、従業員一人ひとりが生産性を高めることが大切だとずっと言ってきました」

 勤務時間は厳しく管理されている。2008年から始めた「20時退出ルール」をさらに進めて現在は、管理職を含む全社員の19時以降の就労を原則禁止とする「19時退出ルール」を実施。業務の都合上、やむを得ず19時以降に働く必要がある場合は、当日17時までに各部門の本部長にその理由を説明し、承認を得なくてはならない。また、毎週水曜日を「ノー残業デー」と定め、1日の標準労働時間を越える就労は原則禁止している。

 「仕事の生産性を上げて、その結果早く帰れるようになってほしいですし、仕事も家庭も充実させてほしい。余暇の時間を使って知識や教養を身に付けることは、会社にとっても大きな力になります」と赤松さん。「皆さんが時間を意識して働くようになりました。特にお子さんのお迎えがある社員は、とても効率よく働いています。周囲の社員も効率を上げなければ、と刺激を受けています。ただ、職務によっては残りがちな部署もあると聞いていますので、どのようにしたら社員がより効率的に仕事ができるかを考えていきたいです」

 今後、グローバル市場で生き残るためには、一人ひとりの生産性の向上が大切、と赤松さんは強調する。ピジョンの市場は世界へ広がっている。現在、売り上げの50%以上は海外で、そのうち6割が中国という。「中国は、2002年に現地法人を設立して以来、成長しつづけています。一方、国内の出生数は1万人単位で毎年減っていますが、業績は好調に推移しています。インバウンド需要もありますが、社員の皆さんの地道な努力のおかげだと思っています」

 また、同社の人事施策が世の中に知られるにつれ、新卒採用の応募者は増えているという。「入社してくださる優秀な社員には、ライフイベントで退職しなければならないというような申し訳ない結果にならないで、長く働いて能力を発揮してほしい。そのために社員が働きやすい制度を作って会社をよくしていきたいというのが経営陣の思いで、その思いをきちんと社員にも伝えています。この会社で働くことを誇りに思えるようにしたい。それを実現するための手段が、人事施策だと思っています」

「ライフイベントを理由に退職させてしまうような申し訳ない結果にならないよう、会社として社員が働きやすい制度を作っていきたい」(赤松さん)
「ライフイベントを理由に退職させてしまうような申し訳ない結果にならないよう、会社として社員が働きやすい制度を作っていきたい」(赤松さん)

* 次回【下】は、1カ月間の育休を取得したパパ社員、その女性上司が登場します。

(取材・文/小林浩子、撮影/稲垣純也)