子どもが生まれるまでは、仕事に目いっぱい没頭できた。産休・育休中は、育児に専念することができた。それが……いざ仕事復帰をすると、仕事と育児の両方が日々降り掛かってくる。時間は同じ、一日24時間。どちらも大事、どちらも最優先。そんなとき、皆さんは何を選び、何を諦めているのでしょうか。

 バリバリでもゆるゆるでもない働き方のワーママに、リアルな体験、心の内を語ってもらいます。今回は拡大版として、全3回に分け、夫の転勤を機に退職、東京から新潟に移住して子育てをしつつ、葛藤しながら再び働くことを始めた、野澤知子さんを取り上げます。

(上)夫の仕事で地方移住、出産「幸せな不自由」を得て ←今回はここ
(中) 「収入がある=心の安定」に気がついた専業主婦時代
(下) 転勤族ママの共働きデビュー「働くこと、もうやめない」 

順風満帆じゃなかった。だから舞台に立てた独身時代

 地方から上京後、人材系の大手企業に就職し、その後も何社か経験しました。そして社数と同じくらい試練がありました。激務による体調不良、人間関係の悩み、リーマンショック後の集団リストラ、経営難で志願して選んだアルバイト時代…。家族をはじめとする近親者の支えがなければ乗り越えられなかったことばかりです。ピカピカのキャリアの人たちが羨ましかった。なかでもこたえたのは、リストラに遭ったこと。2009年、夏の少し前、たくさんの人でにぎわう金曜夜の渋谷駅でそのことをどうしても親に報告できず、すがるように兄に電話したけれど、通話が始まっても1分くらい声が出なかったことを覚えています。必死だったけれど無力であることを突き付けられました。  

 でもそれらの経験が私を強くしました。悲劇のヒロインになるのをやめて「時代じゃない、自分が至らなかったんだ」と謙虚に受け止めることができるようになったのは、どんな状況でも寄り添ってくれた家族と、当時同じ痛みを分かち合った先輩や同僚のおかげです。こうして私は試練を乗り越えるたび、人脈という財産に恵まれました。

 その後就いた仕事はとてもおもしろく、たとえ深夜になっても納得がいくまでのめり込む日々。休みの日にはスポーツジムやアウトドアにショッピング、気の合う仲間と深夜まで話し込むなど、時間もお金も人間関係もすべてにおいて自分の思い通りに過ごしてきました。おそらく多くの働く女性が自信をつけ始める20代後半、私も独身生活を謳歌していました。さまざまな経験を経て、ようやく“自分の舞台” を見つけていました。  

 その一方で、毎日充実していたけれど睡眠不足でいつも肌はボロボロ、休日出勤も増えて友人とも疎遠になり始めていました。「こんな生活をいつまで続けるんだろう」と感じるように。高い化粧品にサプリメント、ちょっと格好いい服。でも“場当たり的な満足感”は否めず…。早朝出勤、深夜帰宅する姿を見せて実家の両親にも心配をかけました。ついに30の大台に乗り、自分のためだけに頑張るには限界が来ていたのだと思います。  

 そんなときに出会ったのが同じ会社の他部署で活躍する夫でした。

絵:野澤知子
絵:野澤知子

自分史上最高にリア充のはずが、モヤモヤした新婚当初

 2014年3月、31歳のとき、夫の転勤辞令が一気に結婚へのコマを進めました。結婚し、退職を決意しました。 夫の転勤は最年少で営業所を立ち上げるというものでしたし、退職した時点で妊娠3カ月だったので、周囲からは幸せ続きの寿退社として大いに祝福してもらいました。しかし、私自身は猛烈にモヤモヤし動揺していたのです。