「プロに行ってから『失敗したくねぇなぁ~』って思うようになってしまった。高校日本一に6回もなっている僕だから、今のままでもイケるはずだって思ってしまったんだね。だから、新しい挑戦とか、失敗に向き合うのが嫌になっちゃった……。ところが、高校日本一に何度もなったとはいえ、それだけで通用するような甘い世界じゃないんだよね、プロっていうのは。確かに高校生のときはトップの実力があったのかもしれないけれど、サッカーでご飯を食べている人ばかりのプロの世界では、まだまだ大したことない。それなのに、もっとうまくなるんだという気持ちになれなかった」

 「それとね、もう一つ、気持ちのなかで、これが足りませんでした」と言いつつ、黒板に大きく文字を書き出した。すると、1人の男の子が「感謝?」と言った。

 「そう! 人に対する感謝の気持ち。『今日もありがとう』っていう、この思いが一切、なくなってしまった。『オレはプロになったんだからスゴい』とか、『プロになれたのは、他の人は関係ない。オレがスゴいんだ』って思っちゃった

夢曲線が下降してしまった理由

 アトランタオリンピックの予選でも代表として活躍したにもかかわらず、本戦のメンバーに呼ばれなかったことに関しても話が及んだ。

 「アトランタオリンピックもアジア予選だけで、本大会に出場していません。なぜかというと、メンバーには選ばれたけれど、レギュラーじゃないって言われたから。オリンピックの本大会には、18人のメンバーが選ばれるわけだけれど、サブメンバーだと言われた。そこで、『だったらオレは行きたくない』って五輪代表を断ってしまったんだね。23歳で日本代表にも呼ばれたけれど、そのときは32時間もかけてアルゼンチンまで行かないといけない。『遠いなあ』と思ったし、ちょうど招集の電話がかかってきたとき、やっさんは友達と温泉旅行に行く途中だった。それで、『オレ、いいや。友達と温泉に行こう』と思って、日本代表の話も断ってしまったんだね」