新たなる目標と大きな夢

　目標を失い、ヤル気の出ないシッキー少年を救ってくれたのは、中学校の先生だったという。

　「目標がなくなると、サッカーもやめたくなったし、学校にも行きたくなくなった。そんなときに、担任の先生が家まで迎えに来てくれて、『学校に行くぞ』って、引っ張って連れていってくれました。学校に着いたら、校長先生が待っていて、『お前みたいにずっとサッカー頑張ってきたのに途中で頑張れなくなった生徒をたくさん見てきたんだ』と言って、これまでの校長先生が出会った生徒の話をたくさんしてくれました。そして、校長先生は言いました。『小学校で全国大会に出て3位になったのに、ここでサッカーをやめるのはもったいない。サッカーを続けて千葉県で一番強い高校に入って、日本一になりなさい！』と言ってくれました」

　目標を失い、ダメになりかけていたシッキー少年を奮い立たせてくれたのは、校長先生との約束だった。

　「校長先生は、千葉県で一番サッカーが強い高校に入って、全国大会で優勝したら、この学校に戻ってきなさい。戻ってきて、この中学校で一度、ダメになりかけたけれど、ここまで頑張りましたという話を全校生徒の前で話してほしいと言ってくれました。それを聞いたときに、シッキーはまた高校で全国大会を目指してみようと思った。そして、日本一になるという目標に向かって頑張ってみようと思いました」

　再びサッカー部の練習に出るようになったが、新たなる目標と共に大きな夢ができた。

　「中学3年生になったころ、シッキーが高校1年になる年に日本にプロのサッカーチームができるというニュースが流れたんだね。それを知ったシッキーは、『よし、強い高校のサッカー部に入って日本一になる。そして、プロサッカー選手になってやる！』と思った。そのために、まずは高校でサッカーを頑張って日本一になって、中学校に帰ってみんなの前で話をするという目標を決めた。そして、プロサッカー選手になるという大きな夢もできました」

サッカー名門校の厳しい練習

　中学校を卒業したシッキー少年は、今では全国的なサッカー強豪校として知られるようになった船橋市立船橋高校へ進学し、サッカー部に所属することになった。

　「お笑いコンビ、ペナルティのワッキーって知ってる？　ワッキーも市立船橋高校のサッカー部にいました。当時はまだ冬の全国大会では一度も優勝したことなかったんだけれど、千葉県でも強い高校として知られていました。自分が日本一の最初のメンバーになるんだと決めて、その高校に進学することにしました。ところが、そんなに甘いものではありませんでした。日本一を目指して頑張って、1年生のときに全国大会に出たけれど、1回戦で負けてしまいました」

　高校2年生になると、サッカー部の練習が厳しくなっていったという。夏休みの暑い中、突如、監督から課せられたのは、100ｍ100本を走るインターバル走だった。部員全員が横並びでスタートして、16秒以内にゴールしないといけない。1人でも16秒以内にゴールできなければ、カウントされないので、結局、200本くらい走ることになってしまうという厳しい練習だ。

　「もう、走りっぱなしだから、みんなヘロヘロです（笑）。当時は練習中に水を飲んだらダメだったので、夕立とかあると、上を向いて雨を口のなかに入れながら走ったりしてね。とても厳しい練習だったけど、シッキーはそんなつらい練習でもミラクルパワーを出すことができました。何でだと思う？」

　「一緒に頑張る仲間がいたから！」という子どもたちの声の後、式田さんは続けた。

　「ひとつは日本一になるという目標があったから頑張れた。そして、もうひとつは、みんなが言ってくれたように一緒に頑張るチームメートがいたからだね。苦しい練習を乗り越えて、日本一になるために頑張ろうという気持ちでひとつになった。倒れてしまうチームメートがいたら、背負ったり両脇から抱えてでも走る。『16秒以内は無理かもしれないけど、何とかもう1本くらいは16秒以内に全員でゴールしようぜ！』って言ってね。最高の仲間と共に苦しいことも乗り越えられたんだね」