スポーツ選手として活躍したアスリートが「夢先生(ユメセン)」として全国の小中学校に派遣され、夢を持つことの素晴らしさや努力すること、仲間と協力することの大切さを伝えるプロジェクト「JFAこころのプロジェクト『夢の教室』」。そんな夢先生のトークを誌上実況中継する連載、今回は東京都台東区立蔵前小学校の5年生のクラスで開催された夢の教室の模様を2回にわたってお伝えします。今回の夢先生は、プロジェクトの草創期から関わり続け、元Jリーガーで、現在は船橋市立船橋高校サッカー部のコーチを務める式田高義さんです。

目標達成したことよりもっと嬉しかったこと

 友達に助けられていじめのつらい状況を脱したシッキー少年は、ますますサッカーを頑張った。6年生になると、いよいよ全国大会にチャレンジだ。

 「色々つらい思いをしたけれど、シッキーは6年生になります。6年生になったら何がある? そう、全国大会だね。シッキー、全国大会に出たと思う人!」

 半分くらいが手を挙げたのを確認して「じゃあ、準決勝になるとテレビで中継されるんだけど、テレビにシッキーは出たと思う人!」と聞く。手を挙げる人数が少し減った。

 「ちょっと減ったね(笑)。実はシッキー、目標をかなえて全国大会に出場して、3位になりました。テレビで放送される準決勝まで勝ち上がったんだね。惜しくも負けちゃったけれど、準決勝の試合がテレビに映りました!」

 「おおー!」と子どもたちからどよめきと拍手が沸き起こるなか、式田さんはこう続ける。

 「テレビで試合が放送されて、すごくうれしかった。いじめもあったりしたから、余計に嬉しかったんだよね。でも、それよりもっとうれしかったのが、テレビに出たことで、応援してくれる人がたくさん増えて、いっぱい応援してもらえるようになったこと。友達からは『頑張ったね!』とか『テレビで観たよ!』って声をかけてもらえた。小さい町に住んでいたから、町中のおじさん、おばさんたちも声をかけてくれました。『ウチの子どもと同じ小学校なんだってね。頑張ってね』とか、『テレビに映ったらしいね。サッカー頑張ってね』などと、たくさん応援してもらえるようになった」

 見事、目標を達成したシッキー少年は、心からうれしかった。中学生になったらもっとたくさんの人に応援してもらえるよう、もっとサッカーがうまくなるために頑張ろうと思った。

中学生になって目標を失った

 中学生になってもサッカーを頑張るつもりだったが、ここでシッキーの描く夢曲線は下降線をたどることになる。

 「中学1年生のときは、サッカーをもっと頑張ろうと思っていたんだけど、中学2年生のときにガクンと夢曲線が落ちちゃった。中学校に入ると、目標は全国大会出場ということじゃなかったんだね。ただ、ものすごくサッカーがうまい1学年上の先輩がいて、その先輩みたいにうまくなりたいというのを目標にしていました」

 ところが、中学2年生になったとき、夏休みで受験勉強に専念するために3年生は部活を引退する。目標とする先輩がいなくなったことで、モチベーションが下がったのだ。

 「何となく目標が消えちゃった。先輩みたいにうまくなりたいと頑張っていたのに、いなくなった瞬間、ヤル気が無くなっちゃったんだね。もういっかなぁって。小学生のときにつらい経験をして、再び仲間とサッカーができる喜びを知ったのに、シッキーはダメになった。目標がなくなって、サッカーつまんないなあ、と。その頃、ちょっとだけ反抗期みたいになっていて、親に何か言われると『うるせぇなぁ』と言ったりしてね。シッキーが悪かったんだよね」