夢に向かうなかで一番苦しかったこと

 ところが、ここでシッキー少年の夢曲線は急降下することになる。

 「選抜チームに入れて嬉しかったけれど、みんなと同じ小学校5年生のとき、シッキーの夢曲線はガクンと落ちます。この黒板から抜けるくらいどん底まで落ちます。全国大会に出てテレビに映るという目標に向かっていくなかで、すごく苦しくて悲しいことがありました。たぶん、夢に向かっていくなかで、一番、苦しかったかな。何だと思う?

 子どもたちから様々な発言があったが、正解はなかなか出てこない。

 「実は、シッキーが一番苦しかったこと。それは、いじめでした。3年生になるとクラス替えがあった。新しいクラスになって1週間くらいたったころだったかな。いつも通りに登校して『おはよう!』ってみんなに挨拶しても、誰も挨拶してくれなかった。『あれ? おかしいな?』と思った」

 それから1カ月近く、無視される日々が続いたという。例えば、班ごとに何かを話し合うときでも、誰も意見を聞いてくれない。給食の時間になっても自分だけ配膳係が持ってきてくれない。掃除の時間になっても仲間に入れてくれないなどなど……。無視するのは新しいクラスの友達だったので、隣のクラスにいる友達やサッカーチームの仲間と話すことが唯一の救いだった。

 「自分の新しいクラスに入るとき、ものすごく苦しかったし、怖かった。でも、シッキーは学校を1回も休まなかった。なぜかというと、サッカーの練習は絶対に休みたくなかったから。学校を休んでしまうとサッカーの練習に行けなくなるでしょ? シッキーは目標を達成したいから、『お前、全国大会に出なくていいのか?』というのがずっと心のなかにあった。好きなサッカーだけはやりたいと思って、頑張って学校に行っていました」

大好きなサッカーも、学校に行くのもやめようと思った

 そんなシッキー少年の夢曲線をさらに下降させる出来事があった。

 「本当に苦しかったのはここからです。今度はクラスのみんなだけでなく、一緒にサッカーやっている仲間にまで、練習中に無視されてしまうようになった。それがもう、本当にすごく苦しかった

 これまでは仲良く一緒に練習していた仲間が、急に無視するようになったのだ。2人組や3人組のパス練習になっても、同学年の仲間は一緒に練習してくれない。仕方なく、シッキー少年はひとつ下の4年生やコーチと練習をした。そこまでは何とか耐えることができたが、大好きなサッカーをやめようと思ってしまう瞬間が訪れた。

 「試合になると、みんなで頑張ろうぜって作戦考えたりして、ミラクルパワーが出るよね。前みたいにみんなと一緒に頑張りたいから、みんなに振り向いてもらえるように頑張ってシュートを決めたの。『ナイスシュート!』とか声かけてもらえるかと思ったら、みんな無視なんだよね。しかも、1人のチームメートが『アイツのゴールは点じゃない。オレたちだけで1点取るぞ!』って。そう言われたとき、シッキーはもう、ダメだなって思った……」

小学校5年生のとき、いじめを受けて「夢曲線」はガクンと下がってしまう
小学校5年生のとき、いじめを受けて「夢曲線」はガクンと下がってしまう