大きなホールで毎年開催するライブがメンバーの励みに

 現在は毎週、東京と横浜でレッスンが開かれ、大阪と沖縄にも姉妹校があります。今年は北海道のラブジャンクスが始まり、牧野さんが通って指導しています。全国の生徒は小学生から大人まで、千人にもなりました。月謝制ではなく、チケット制で通いやすくしています。

 牧野さんはダウン症への理解を広げるため、ラブジャンクスを通して様々なチャレンジをしてきました。発表の機会があるとメンバーの励みにもなるので、東京の「中野サンプラザ」という大きなホールで毎年、ライブを開いています。筆者も何度か見に行っていますが、芸能界で活躍する牧野さんのセンスが光り、理解ある企業からの助成金を得て、演出や照明も本格的。およそ300人のメンバーが熱く踊り、地響きが客席まで伝わってきます。

大きなホールで毎年開催される本格的なライブがメンバーたちの励みになっている
大きなホールで毎年開催される本格的なライブがメンバーたちの励みになっている

 ラブジャンクス初期のころは、メンバーを連れて泊まりがけの大きなイベントに参加。海外にみんなで行って踊ってくる機会もありました。ダウン症のある人は筋力がつきづらいといわれていたものの、地道な練習によって力をつけ、レベルアップを目指すメンバーも出てきたので上級のクラスを作りました。上のクラスに進むには、保護者の意思ではなく、本人が自分の言葉で伝えなければなりません。オーディションもあります。

 芸能界でラブジャンクスを応援してくれる歌手やダンサーもいて、ブレイキングを定期的に教えてもらい、プロと一緒に人前で踊る機会も多いです。演劇にも挑戦してきました。難しいセリフを時間をかけて覚え、プロと共演する舞台も成功。ダンスライブの中でも寸劇を披露し、セリフが出てこない仲間がいれば助け舟を出し合います。コミカルな演技が上手で、客席はいつも温かい笑いに包まれます。

 昨年はCD デビューを果たしました。オーディションで選ばれたメンバーが歌い、バックダンサーもいます。これからプロモーションビデオを作り、時間をかけてPRしていくそうです。「時間をかけて、メンバーの横のつながりができました。長く参加しているメンバーは、仲間と泣いたり笑ったり、好きなダンスを通して自立に向かって変わり始めました

 明るく可能性を秘めたダウン症のある人たちに、自分自身も元気づけられてきた牧野さん。芸能界の仕事にも戻りました。兄がAKBグループのスタッフを務める関係で、振り付けを引き受けました。「最初は、秋元康さんのプロデュース力に興味がありました。私はラブジャンクスを軌道に乗せたものの、どうやって展開していくか悩んでいた時期。『ヘビーローテーション』『フライングゲット』などヒット曲の振り付けを手掛け、全盛期をバックアップできたのはいい経験ですね」

 SKE48の育成を担当したときは、その厳しいレッスン風景に「鬼軍曹」とも呼ばれました。芸能界で生きていくには、運も大事。一度は売れるかもしれない。でも牧野さんは、「最終的には、努力をしなければ輝き続けられない」と知っているので、愛情をもって厳しくしています

 「芸能の仕事は100%、ラブジャンクスのためになるかどうかで決めます。ラブジャンクスを応援してくれるアーティストが所属する事務所に頼まれたらレッスンを引き受けます。メンバーがAKBと共演できて喜び、保護者が『あの曲を振り付けたアンナさん』と認知してくれると単純にうれしい。『第一線で活躍する人がやっているラブジャンクス』と知ってもらいたいから。ダウン症のある人も自然に暮らしていける社会にするために、手段があれば何でも挑戦します」