父と衝突、ダウン症者へのダンス指導を開始

 沖縄を離れてアクターズスクールの横浜校を任されていたとき。指導を頼まれたよさこいのグループの中に、ダウン症のある人たちがいました。そのときはそんなに意識しなかったそうです。

 「他にダンスが苦手な人がいて、面倒見のいいおばちゃんや高校生が教えてあげていたので、気にならなかった。私は、父との関係でつらい状況にいました。父に厳しく怒られている私を見て、かばってくれたのがダウン症のある人たちでした

 その後、ダウン症の協会から依頼されイベントで披露するダンスの指導をしました。最初は緊張したそうです。「子どものころから、身近にダウン症のある人はいなかった。周りの人に聞いても、性格が難しいといったネガティブな情報ばかりで」。初めての練習に行ったとき、彼らがそんなことを吹き飛ばす自由さを見せてくれました。

 ダウン症のある人たちは、「カリスマインストラクターの牧野アンナ」を知りません。音楽がかかって楽しいから、体を動かす。牧野さんのアシスタントがブレイクダンスをしたら、まねして転がりだしました。「それを見て、保護者も笑っているんです。障がいのある人を見て笑ってはいけないと思っていた私は衝撃でした。特別に身構えなくていいんだって。私も解放されて、久しぶりに思いっきり踊りました」

 本当はそのイベントだけの関わりだったのですが、みんなに求められた牧野さんはアクターズスクールを辞めて2002年、東京で「ラブジャンクス」というダウン症のある人のためのダンススクールを始めました。今は亡き芸能界の恩人や、保護者もバックアップしてくれました。

 「お医者さんに聞いたり本を読んだりしてみたけれど、激しい運動は無理とか消極的で、知りたいことは分からない。実際にダウン症のある人たちと付き合い、それぞれに体調や状況を見てもらいながら進めました。本人たちにどの曲がいいか意見を聞き、振り付けは簡単にして自由に踊れるように。保護者にも話を聞きました」

 生まれたときの感情、学校に通う過程や仕事探しでどれだけ壁があるのかを知り、ダウン症への偏見を無くしていくことがラブジャンクスの目標になりました

 15年以上の活動を通して、社会は変わったのでしょうか。牧野さんに聞くと「まだまだだと思います。誤解があるか分かりませんが例を挙げれば、オネエと呼ばれるタレントさんがいますよね。彼らだって昔は偏見を持たれていた。今では、それぞれの才能を生かして活躍しています。ダウン症のある人たちが街を歩いてもテレビに出ても、『えっ』と反応されない存在になったら。ずっと続く闘いなのかなと思います」。

教室は東京と横浜以外に、大阪、沖縄、北海道にも。小学生から大人まで全国にいる1000人ものメンバーを指導
教室は東京と横浜以外に、大阪、沖縄、北海道にも。小学生から大人まで全国にいる1000人ものメンバーを指導