十人十色のオランダ離乳食

オランダの冬の風物詩「シンタクラース」に関する帽子をかぶった子ども
オランダの冬の風物詩「シンタクラース」に関する帽子をかぶった子ども

・サンドラさん(39歳)
9歳の小学生を筆頭に、3人の子どもの母親。スタジオ・カメラマンとして働いているので、夫ともども離乳食を手作りしてこなかった。自宅でも外出先でも、瓶詰ペーストですべてをまかなっていた。

・キムさん(35歳)
保育士として働く、6歳、4歳、2歳の子どもの母親。10代のころに拒食症を患った経験があり、食には独自のこだわりがある。子どもに与える離乳食はすべて無農薬野菜で手作りしてきた。市販品は信用できないので、瓶詰ペーストは使わない。

・ドリエンさん(31歳)
クラームゾルフ(産後約一週間、新生児のいる家庭に派遣される産褥ヘルパー。医療保険で利用できる)として働くドリエンさんは、6歳と4歳の子どもの母親。離乳食は基本的に手作りしたが、外出の際は瓶詰ペーストを利用した。自分自身も働く母親のもとで育ち、瓶詰ペーストで育てられたと聞いているので、市販品を使うことに抵抗は全くない。

 3人に話を聞くだけで、それぞれ全く異なるスタンスの回答が返ってくる。オランダの離乳食は、親がきちんと子どもの様子を把握できていて、子どもが健康を損ねない限り、誰からも文句は言われないのだという。大事なのは「あなた(親)はどうしたいのか」「その離乳食で、母親も子どももハッピーになれるのか」という考え方。だから瓶詰ペーストで楽をしても、母親が時間がつくれてハッピーなら、それが一番なのだ。

オランダの小学校のイベントには、平日でも保護者が大勢参加する
オランダの小学校のイベントには、平日でも保護者が大勢参加する

 余談だが、オランダの小学校には留年や飛び級の制度がある。子どもが進級に必要な学力に達していないと判断されたら留年を勧められるし、理解が早い子は上の学年に飛び級することができる。決して留年は恥ずかしいことではなく、「理解できないまま進級させることのほうが、かわいそう」と考えられている。大事なのは、他の子どもとの比較ではなく、その子ども自身の状態。オランダの離乳食事情を調べるうちに、この小学校の考え方に似ているなと思い至った。「6カ月になったらこの食材を与え始める」というマニュアル通りのスケジュールで進めるのではなく、乳児であるわが子を見て「これなら食べられそう」と親が自分で判断しながら進めていくのだ。試してみて、まだ無理そうならさらに様子を見ればいいし、子どもがハッピーそうなら引き続き与え続ける。家庭ごとのペースで進めていいし、それを誰にも責められない。なんと自由な子育てだろう!

 オランダ流を今すぐにまねするのは難しいかもしれないが、忙しい日本の共働き家族も、ぜひ肩の力を抜いて気楽に離乳食と向き合ってみてはいかがだろうか。そして筆者自身も、離乳食の本と首っ引きだったかつての自分に「子どもを信じて気楽にいこう」と声をかけてやりたいものだ。

(取材・文/倉田直子=海外書き人クラブ)