日本では残業が多かったので、夕食を子どもと一緒に食べ、寝るまで一緒に遊んだり、勉強したり、というような「普通の生活(?)」が、カナダに来た当初にはとても新鮮でした。

 多様性を誇るカナダでも、家族や子供のための時間を最優先し、仕事は二の次で、家庭生活が全ての中心である、という価値観だけは全民族に共通しているように感じられます。学校行事が理由による早退や遅刻、子どもの急な病気による在宅勤務への変更、など、勤務時間や方法をフレキシブルに変えていくことは、ごく当たり前のこととして、社会に受け入れられています。私がカナダに赴任当初、子どもを病院に連れていくために会社に遅刻する旨を連絡したことがありましたが、そのときの上司は「そんなこと、いちいち言わなくていいよ。それよりも、あなたが一番やらなくてはいけないことを、最優先でやってね」と言われ、その自由かつまっとうな考え方に衝撃を受けたことを覚えています。

子どもの自己肯定感を高めるカナダ人の子育て

 また、カナダ人が子どもと接している姿を見てよく感じるのは、子どもに自信を持たせることが非常に上手な点です。日本には謙遜の文化が基本にあるので、わが子を他人から褒められても、親は「いえいえ、うちの子なんて」と、わざわざネガティブなことを子どもの前で言ったりすることがあるかと思います。

 ですが、私がエレベーターで、父親と6歳と4歳くらいの男の子とエレベーターに同乗したときのこと。途中の階から、買い物帰りの親子3人が乗ってきましたが、お兄ちゃんは、両手にスーパーのビニール袋を持ち、4歳の弟の手には、家の鍵と、なんと買ったばかりの卵の12個パックが。小さな両手で、大事そうに卵のパックを抱えている、そのほほ笑ましい光景に、私が思わず「おぉ、すごいね~、卵を持ってるんだ!」と声をかけると、父親が「そうなんだよね~。一番重要な仕事は、一番年下のXXX(名前)がやってくれるんだよね~」と一言。そう言われた、卵を持って緊張していた4歳児の満面の笑みは忘れられません。心配から、ついついネガティブな言葉を子どもにかけてしまいがちですが、カナダ人の子どもを尊重し、ありのまま受け止めるその姿に、学ぶところは多いと感じました。

 以上、あくまでも私の目線から見た話になってしまいますが、カナダの教育や子育てについて紹介させていただきました。カナダ人が誇りにしている価値観、ダイバーシティとインクルージョン。多様性を受け入れることで、他人に自分と同じであることを求めるのではなく、他人の価値観や個性を尊重し、そして同時に自分のありのままにも自信を持ち、強みを伸ばすということ……。

 これからの時代、ますます、先の読めない社会になっていきそうです。そして100歳まで生きることが普通になる時代。何が起きるか分からないからこそ、自分とは違う価値観を尊重し、それを受け入れる(ダイバーシティとインクルージョン)教育を実施しているカナダから、日本が学べるヒントがあるように感じます。

(取材・文/久保恵一)