お国柄がにじみ出る世界の子育て事情を、各地に住むライターのリレーでリポートしていくこの連載。今回は米国のキッズパーティー事情について、ニューヨークに住む坂下曜子さんに伝えてもらいます。

パーティー会場は遊戯施設や習い事の場を活用

 パーティーやイベント好きの米国人だが、わが子のバースデーパーティーを開くときの気合いの入れ方はちょっと違う。パーティーが特に盛んなのは、日本の幼稚園の年中に当たるプレ・キンダーから小学2年生くらいまで。クラス全員を招いた大掛かりなパーティーは9割以上が外部の屋内施設で開かれ、自宅で開くのはまれだ。コストは高いが、大半の子どもが自分の誕生日を盛大に祝ってもらう経験をする。なぜ米国ではそこまでして子どものバースデーパーティーを重視するのだろうか。

 記者が住む米ニューヨーク州のウェストチェスター郡は、中心地マンハッタンから電車で30分ほどの郊外だ。緑豊かな環境で、居住者の平均所得は高く、教育に熱心な家庭が多い。4月下旬、現地校の小学2年生の息子がクラスメートのメイソン・セイプール君(8)のバースデーパーティーに呼ばれた。場所はわが家から20分程度離れた「ロッキング・ジャンプ」という遊戯施設。施設内の床がトランポリンになっていて、跳ねたり走ったり、自由自在に体を動かせるので男の子を中心に大人気だ。パーティーは2時間制で、インストラクターと一緒にトランポリンを使ったいくつかのゲームをし、その後、別部屋でピザや誕生日ケーキを食べて祝う。親は会場にいるものの、ほとんど何もしなくてよい。「20人程度を招待して、総額は1000ドルを超えたわ」と話すのは主催した母親のタラさん。「かなりの出費だけど子どものためだから、毎年必ず開くの」と話す。

パーティー開催のコストは高いが、大半の子どもが自分の誕生日を祝ってもらう経験をする
パーティー開催のコストは高いが、大半の子どもが自分の誕生日を祝ってもらう経験をする

 普段の習い事の場をパーティー会場に活用することもある。体操教室の「マイ・ジム」では、月平均20件のバースデーパーティーが開かれる。夏に4歳になる娘のパーティーを開こうかと問い合わせると、担当者に「可能な日程がかなり少なくなっているので早めに決断してください」とすぐに返事が来た。他には、工房で陶芸や水彩画、アクセサリーを制作して持ち帰るクラフト系パーティーは女の子に人気。市民プールやりんご農園で開かれることもある。一風変わったものでは、複数のゲーム機を搭載した大型トレーラーを借り、自宅前に駐車して、その中でゲーム三昧のパーティーができるサービスもある。

屋内の遊戯施設や習い事の場がパーティー会場として利用される
屋内の遊戯施設や習い事の場がパーティー会場として利用される

クラス全員を呼ぶのがルール、毎週末のように参加も

 米国で自宅外の施設で友人を招待したバースデーパーティーが盛んに開かれるようになったのは1980年以降。ワーキングマザーの増加が背景にあるといわれている。オンラインでイベントの予約を受けるギグマスターズ・ドットコムの調べでは、2010~12年に同サイトを経由して子どものバースデーパーティーの予約をした人の70%が300ドル以上支払い、14%は1000ドル以上支払った。コストはかかるが、準備にかける手間や当日の労力を省けるので、外部に委託するのが一般的だ。家族制度の研究で有名なミネソタ大学のウィリアム・ドハティ教授は「多くの親は自ら子育てのハードルを上げ、子どもに関する活動のすべてを充実させたいと思っている。バースデーパーティーも高いクオリティーをどんどん求めるようになっている」と指摘する。