祖母のために洋服を作った母に憧れて

 専業主婦の武石さんが、シニア向けの洋服を作ろうと起業したのは14年前。父が88歳の祖母のために洋服を作ってほしい、と母にオーダーしたのがきっかけでした。

父が「祖母が外に出歩きたくなるような洋服を作ってほしい」と母にオーダーしたのが、起業の最初のきっかけ
父が「祖母が外に出歩きたくなるような洋服を作ってほしい」と母にオーダーしたのが、起業の最初のきっかけ

 「祖母は誇り高く美しき人だったのですが、だんだんスタイルが変わってきてしまいました。とくに、後ろ姿は周りの人のほうが気が付いてしまうんです。祖母自身もファッションを楽しむことがままならなくなり、家に閉じこもりがちになっていました。そこで父が、祖母が外に出歩きたくなるような洋服を作ってほしい、と母にオーダーしたんです。母が試行錯誤をしながら、祖母の体形に合ったブラウスを作りました」

 そのとき、祖母以外にも同じ悩みを抱えている人はいるのではないかと思い、色々と調べてみたそう。

 「当時、シニア向けに特化した洋服は、あまりありませんでした。皆さん大きいサイズを着て埋め合わせしていたんです。あったとしても、介護用品のコーナーに置いてあり、病院服のような感じであまりかわいくなくて。これを祖母に着せるのは嫌だな、と思いました」

 当時、長男は小学2年生、次男は2歳。在宅でできる職業に憧れがあったといいます。

 「外に働きには行けないけれど、何となく社会との接点を持ち続けたいと、ずっと思っていました。当時は、在宅でできる仕事は弁理士や建築士などしかなくて羨ましかったですね。家で子育ても妥協せずに、ちゃんと社会との接点を持っているというのがすごいと思いました」

 さらに、更年期を迎えた母親に、もっとイキイキとしてほしかったそう。

 「母は明るい人なのですが、更年期だったせいか、あまり楽しいことがなくて。娘(私)も大きくなってしまうし、夫ももうすぐ引退してしまう。奥さんでもなく、母でもなくて、どうしたらいいの、というところにいました」

 「祖母が母が作った洋服をとても喜んでくれたので、『お母さん、すごいことをやっているよ』と言うと、『私がやったことは全然すごくないから』と言うんです。母に自信を付けてもらうには、私ではなくて誰かが褒めてあげるのがいいだろう、と思い起業を決意しました