起業するまでの経緯や仕事と家庭の両立についてなど、多くの壁を乗り越えてきたママ起業家や社長にインタビューする「私が壁を乗り越えたとき」。今回は、アルミ製お弁当箱等のランチグッズやエプロン、マスク、今治ミニタオルなどの子ども雑貨を企画・製造・販売するスマイリッシュを経営する古澤友絵さんを紹介します。

 古澤さんは専業主婦として長男と双子の長女・次女を出産。1990年代にアメリカ在住の友人を通じて子ども服を仕入れることからスタートし、エプロンやマスクの製造販売を行うスマイリッシュを2002年に立ち上げました。2009年に法人化、現在はランチグッズやミニタオルの製造販売やOEMも手がけています。起業当初は幼かった3児も現在は社会人に。ライフスタイルや世の中のニーズに合わせてビジネスを拡大してきました。

 上編の「出産後、夫に『働いてみたら?』と言われ起業を意識」に続き、今回は法人化に至る経緯や取り組んできたこと、子育てとの両立について紹介します。

転んでもただでは起きない

 全国の百貨店にスマイリッシュの商品を置いてもらうきっかけになった問屋さんが、売り上げ未入金のまま倒産。あまりのショックにその後、約1年は途方に暮れていた古澤さんでしたが……。

 「1年後、ふと思い立って直接、東急百貨店さんや伊勢丹さんに『商品を置いてもらえませんか』と頼んでみたのです。そしたら『いいよ』と言ってもらえて。問屋さんを通じて取引実績があったからこそですね」

 思い切った行動が功を奏し、スマイリッシュは少しずつ売り上げを伸ばしていったそう。当初は自宅で行っていた製作・梱包作業がそれでは追いつかなくなり、自宅隣のアパートに一室借りて行うようになりました。税理士の先生から「ある程度の売り上げが上がってきたら法人にしたほうが良い」とアドバイスを受けていたことや、資本金1円からでも株式会社が作れるようになったこと、そしてアパートが更新の時期を迎えていたタイミングで、2009年にスマイリッシュを法人化。自分が子ども時代を過ごし、馴染みのある目黒にオフィスを移転しました。

古澤 友絵
スマイリッシュ株式会社社長
法政大学 文学部で英文学科を専攻。卒業後、アパレル会社に入社。退社後、電通でスポーツ事業に携わり、その後J-wave CDライブラリーで働く。J-wave時代に結婚、第一子を出産。続いて双子を出産し、子育てのため専業主婦に。子育て中に在宅で、アメリカからの子ども服輸入販売を開始。それまで日本になかったアメリカの子ども服ブランドが軒並み日本進出したため、子ども服輸入販売を終了。自分の子どもたちに着せる、キャラクターものではない可愛いエプロンを製作・販売開始。子どもたちの口コミでじわじわと売り上げを伸ばす。また、大学時代の先輩から百貨店専門の卸売業者を紹介され一気にスマイリッシュ商品が全国展開に。 売り上げがある程度まとまったところで、現スマイリッシュ株式会社を設立。

人と人のつながりで成り立っているビジネス

 一方、自身にも「小1の壁」が近づいてきて、どうしようかと焦ったといいます。

 「現在スマイリッシュで働いている7人は、皆、私の親戚や知人、幼馴染ばかりです。法人化したこのタイミングでも、棚卸しを手伝ってもらったことがきっかけで、夫同士が従兄弟、しかもデザイン経験・アパレル店舗経営経験のある親戚の女性にスマイリッシュに加わってもらうことになりました。今も彼女にはデザイン業務全般をお任せしています。物作りやアパレルに興味があるとの共通点はありますが、楽天的な私とは正反対のキッチリした性格なので、いつも何かとサポートしてもらっています」

 SNS やネットを通じて簡単に人と出会えてしまう時代、あえてアナログな人間関係でビジネスを成り立たせている古澤さん。

 「私たちは『仲良しクラブ』なんです(笑)。人と人のご縁で成り立っている会社だし、それでいいと思っています。そのほうが安心だし、楽しいでしょう?  私も週4日勤務で、週1日勤務のメンバーも3人います。だから常にオフィスには2~3人しかいません。7人全員が毎日顔を会わせるわけでなく、毎日メンバーが入れ替わることで全員が互いに程よい距離感で付き合えている点も良いのかもしれません。オフィスがあるビルの1階がたまたまバーなので、仕事を早めに切り上げてその日のメンバーで立ち寄り、『今日の夕飯、何にするの?』『○○買って帰らなきゃ』なんて世間話を1時間くらいすることもよくあります」

 男性社会ではビジネスに私情やプライベートを挟むことは一般的ではないかもしれません。しかし、スマイリッシュでは、メンバー全員がプライベートの面で仲が良いことこそ商品開発の肝になっているといいます。

 「『次は何しようか?』『このデザイン、どう?』『こんな商品作ったら売れると思う?』『それ、絶対売れないよ~』なんて、皆でワイワイ話しながら決めていきます。皆、好みも感性も違うから色んな意見が出てくるので、最終的には多数決です。デザインを形にするのはデザイナーですが、皆で雑誌やカタログを見たり『リボン柄がいい』と誰かが言えばそれを柔軟に取り入れたりしつつ、作っていくという感じです」