最初は逆の立場として敵視されていたものの、「会わせたくないと考える妻側の気持ち」や「親同士として、妻との関係をよくしていく方法」を参加者たちに丁寧に伝えているうちに、次第に信頼されるようになったと言います。

 「その会に参加するうちに、親同士が争いをやめないとますます子どもに会えなくなるということに気づきました。そして相談を受けるジャンルを面会交流に特化する方向にシフトしていったら、口コミでどんどん広がっていって、講演を頼まれたりもするようになりました」

 面会交流の相談に乗り、面会交流に付き添うサポートを始めると、会社員としての本業に支障をきたすまでの相談依頼が来るようになり、2017年2月についに退職を決意。引き継ぎを経て、その年の6月末には退職しました。

 「まだ事業が完全に軌道に乗っているわけではありませんでしたが、会社での仕事中に相談者からの依頼メールを読んで、『このメールに今すぐ返信したい』といった衝動を抑えきれなくなったことが、直接のきっかけとなりました。『私が今やるべきは、これだ』という確信がありましたし、退路を断つことでよりまい進できると思いました。また、周囲も『本気だな』と思ったようで、退路を断ったことで、多くの応援を受けることもできました

社会的信用を得るため、個人事業から法人へ

 面会交流相談は、さらに口コミで広まり、相談者は増加。退職から約4カ月後の2017年10月には、面会交流支援をはじめとする、別居離婚後の両親での子育てをサポートする「共同養育」事業を柱として一般社団法人を設立しました。

 「起業の『き』の字も知らなかったのに、事業を興すことになるなんて、自分が一番驚いています。でも、全国にいる「子どもに会えないパパやママ」や「親に会えない子どもたち」を救わなくては、という思いから、法人化を決意しました。離婚後の面会には、司法や行政の問題が絡むこともあり、自治体や国会議員に陳情したりする必要も出てきました。そういうときに法人格を持つことで信頼を得る必要があると思ったんです」

 しばはしさんの事業は更に拡がり始めました。ただ、私生活では息子さんの中学受験に関連して、ある大きな壁に直面。それを乗り越えられた背景には、「息子を絶対に会わせたくない」と思うほど避けていた元夫との関係修復があったと言います。詳細は下編でお伝えします。

取材・文/磯部麻衣 写真/本人提供、PIXTA

しばはし 聡子(しばはし・さとこ)
共同養育コンサルタント。一般社団法人りむすび代表。NPO法人日本家族問題相談連盟認定離婚夫婦問題カウンセラー。1996年に慶応義塾大学法学部卒業後、エネルギー業界に20年勤務。広報や秘書を担う。自身の子連れ離婚経験を生かし、別居・離婚後の子育てや相手方との関わりで悩む人たちを手助けしたいという思いから2017年10月に「一般社団法人りむすび」を設立。