起業するまでの経緯や仕事と家庭の両立についてなど、多くの壁を乗り越えてきたママ起業家や社長にインタビューする「私が壁を乗り越えたとき」。第13 回は、一時預かり専門の託児施設を開業したアップストリーム・エデュケーション株式会社鈴木万久美さんを紹介します。

 鈴木さんは、国内証券会社を経て外資系投資銀行などで活躍後、妊娠を機に退職。長女を出産後、2015年に子どもを対象にしたマネー教育を行う会社を起業。自ら講師として出向く際に、近所にある一時預かりの施設に登録したものの空きがない状況から必要性を感じ、2017年に一時預かり専門の託児施設を開業。現在は、幼稚園に通う長女の子育てをしながら、社長業を両立しています。

 前編の「わが子に世の中を見る目を身に付けてほしいと起業」に続き、今回は起業してから取り組んできたことや、子育てと社長業との両立について紹介します。

2015年、起業。夫婦で考えた子ども向けのマネー教育をスタート

 2015年10月にアップストリーム・エデュケーション株式会社を設立。子どもを対象にした金融経済教育に関する授業やセミナーを企画し、提供する事業をスタートさせました。

 「個人事業主ではなく株式会社にしたのは、株式会社のほうが信頼されると思ったから。今後、事業を展開していくことを考えても、株式会社のほうがいいと思ったんです。夫も『やってみればいいじゃないか』というタイプで、後押ししてくれました」

 授業内容はすべてオリジナル。今も金融機関に勤めている夫からも協力を得て、夫が骨子を考え、鈴木さんが子ども向けにアレンジをしたといいます。

 「貿易ゲームやオークションゲーム、お金の神経衰弱など、子どもが楽しく学べるように、ゲームの要素を取り入れました。小学校3年生以上を対象にした講座では、貨幣博物館に行くことも。子どもの年齢や習熟度に合わせて授業を考えています」

鈴木 万久美
アップストリーム・エデュケーション株式会社 代表取締役
淡路島出身。大学卒業後、国内証券会社を経て外資系投資銀行の株式部門に勤務。国内の個人・法人を対象とした株式ビジネスの営業支援業務に従事するなど、証券ビジネスに5年近く携わる。その後、外資系金融情報会社にて国内外の金融機関や学校・研究機関の顧客に対し、金融関連情報の提供業務に従事。出産を機に退職し、現在は一児の母。趣味は絵画、和菓子制作。AFP認定者。

子どもを預けて仕事をしたくても、一時預かり託児施設が見つからない

 塾や民間の学童などにアプローチし、自ら講師となって教える日々が始まりました。

 「起業したのは、娘がまだ2歳になる前の頃。夫の会社から補助が出る託児施設が六本木にあったので、自宅から電車で30分以上かけて預けにいっていました」

 それから子どもを幼稚園に通わせることを決めたものの、仕事とどのように両立したらいいのか悩んだといいます。

 「降園時間は水曜が11時30分、それ以外の月曜から金曜までは14時で、預かり保育は16時半まで。仕事は夕方までかかるので、預かり保育ではお迎え時間が間に合いません。とはいえ、幼稚園が終わってから電車で六本木の託児施設まで連れて行き、仕事が終わってから迎えに行って電車で家に帰って、翌朝また幼稚園に行く……という移動ばかりの生活を考えると、胸が痛みました」

 そこで、幼稚園入園の1年前となる2016年の4月くらいから、自宅近辺の一時預かり託児施設を探し、3カ所登録しに行きました。でも、翌年の3月になっても、順番が回って来なかったといいます。