刑事時代とは違った充実感

―― 今後、警察官としてどういう道に進みたいといった希望はありますか? いずれ刑事に復帰したいとか。

草薙 やっと今、仕事も家庭も安定した時期に入ったので、先のことは考えていません。それも留置管理課に異動させてもらったからこそなので、育児が落ち着いたから「はいさようなら」というのも違うと思うんです。そもそも戻れるかどうか、それは私が決めることでもないですしね。

 先ほど刑事を辞めたときに「刑事人生終わった」と思った話をしましたが、今はどんな仕事でも、胸張って一生懸命やれればそれでいいと思っているんです。刑事や白バイというのは、一般の人でも誰でも知っている、花形の仕事ですが、警察の仕事はそれだけじゃありません。留置施設で働く人がいるから、刑事だって被疑者を逮捕できる。人に説明しにくい仕事でも、自分に与えられた必要な仕事なんだから、そこでちゃんと働いて、社会に貢献できればそれでいい。

 今は今で、刑事時代とは違った充実感があります。毎日楽しいですよ。楽しいって言っていい類いの仕事かどうかは微妙ですけど(苦笑)。

―― 草薙さんにとって、家族とはどんな存在ですか?

 まず家庭がうまくいっていることがすべての根本だと思っています。家庭内が不和だったときは、仕事もやっぱりうまくいかないんですよね。長男が生まれたころ、私は盗犯の中でも盗品捜査というものを専門にしていました。盗まれた被害品を探して、質屋とかリサイクルショップを回ったり、そこに怪しい人が来ていないかを聞き込んだりするんです。でも、なんだか大スランプに陥っちゃって、何をしてもうまくいかなくなってしまいました。家庭を放り出して仕事だけやっているのに、それで仕事もうまくいかないんだったら何の意味もない。まず家庭ありきで、それから仕事だと、今は思っています。

―― 最後にお聞きしたいんですが、お子さんがもし警察官になりたい、って言ったらどうしますか?

草薙 ……この質問が一番難しいですね。今は、息子は仮面ライダーになりたいって言ってますけどね(笑)。放送がある日曜日になると、いつも戦いをやらされています。もちろん私が悪役で(笑)。

 この前、警察官の仕事に密着するテレビ番組を見ていたら、交番のおまわりさんが怪しい人に職務質問をして、覚せい剤所持で逮捕したシーンがあって。それを見て息子が「おまわりさんすごい! お父さんの仕事はこれなの?」って聞いてきたんです。「今はちょっと違うかなー」って濁しちゃったんですが、でも警察官に興味はあるのかな、と思いました。

 もし大きくなって、本当に警察官になりたいと言い出したら、自分の経験をちゃんと話してあげたいと思います。お父さんはこんなきっかけがあって警察官になって、刑事になって、でもママと子どもたちを大事にしたくて職場を変わって、と。それでも本人が「なりたい」と言うなら応援はしてあげたい。

 でも、仕事と家庭のバランスをとって働くことは、これからどんな職業に就いても大事なことですよね。もちろん警察じゃない仕事を選んでも、応援したいと思っています。

●取材を終えて

 草薙さんはもともと警察志望じゃなかったというのもうなずける、ある意味ではおっとりとした雰囲気の方でした。そんな人が刑事の仕事にハマってしまったというのですから、人生何が起こるか分かりません。

 思えば私も警察官時代、刑事課の先輩から「大変だけど刑事は面白いぞ。おまえも来い」と言われたことを思い出しました。「警察官を続けるなら刑事をやろう」とひそかに考えていましたが、結局は現在の道へ。そのまま刑事をやっていたとしても、刺激的な仕事だったのかも、と思いました(なれたかどうかは別ですが)。

(取材・文/日経DUAL編集部 田中裕康 撮影/江藤海彦)