おしどり夫婦として知られる女優・タレントの矢沢心さんと、日本人初のK-1世界王者・格闘家の魔裟斗さん。2人は、5歳と3歳の2人の女の子のママとパパであり、不妊治療の経験者でもあります。

 矢沢心さんから魔裟斗さんへ、そして再び矢沢心さんへとつないできた連載も、本編は今回で最後です。前回は、2人目の妊娠が分かってから出産に至るまでのこと、2人を産んでみて改めて感じたお産に対する思いについて語ってもらいました。最終回となる今回は、2人の娘さんと過ごす中で感じた母としての思い、不妊治療について伝えたいことや現在の活動などについて伺いました。

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2人の娘の子育ては、私も成長する「育自」

 次女が生まれて、またしても私の生活は一変しました。長女と夫との3人だったときは、長女や夫のお世話をしても、まだ自分の時間がありました。時間の調整をして、発散することもできていたので、あわただしくも楽しい毎日でした。

 ところが、次女が生まれてみると、長女と次女の2人の世話を同時にしなくてはなりません。何をするのにも、倍どころかそのまた倍の時間がかかってしまうため、自分の時間は全くなくなってしまいました。自分の時間といえるのは睡眠だけという状態で、やりたいことがどんどん次の日に繰り越されて、たまっていきました。

 次女のおむつを替えたと思ったら、長女をトイレに連れていってと、1日に何度手を洗ったか分かりません。あまりにアタフタしていて、「あれ? 私、手を洗ったっけ?」と洗ったかどうかも分からなくなることもたくさんありました。

 それだけでなく、長女と次女の2人から要求があると、同時には応えてあげられないことに、「自分が子どもにしてあげられることは、こんなに少ないのか……」とちょっとショックを受けました。

 長女は抱っこが大好きな子だったのですが、次女の妊娠中に前置胎盤でおなかが張るようになったため、抱っこができなくなりました。次女が生まれてからもやはり次女が優先になり、次女も成長につれて「ママ-、抱っこ-」と言ってくるようになったので、どうしても長女に我慢をさせる場面が増えてしまいました。

 そのことがとても気になって、あるとき自分の姉に相談しました。「子どもが欲しくて欲しくて、やっと生まれてきてくれた長女なのに、いつも我慢させてしまって、自分がすごくイヤになる」と。

 そうしたら、姉はこう言ったのです。「私もそうだったよ。でも、それは長女として生まれた子の宿命。大丈夫、子どもはちゃんとそれを引き受けて育つから」「長女と次女には役割分担があるの。妹には妹の苦労がある。それが宿命なんだよ。あなたもそうだったでしょ」と。

 それを聞いて、私は「そうか」と素直に納得しました。こんなことでウジウジ悩んでいないで、もっと大きな視点から子どもたちのことを考えてあげられるようにならなくちゃと、気持ちを新たにしました。

 こういう一つひとつの積み重ねを、きっと「育自」というのでしょう。こうやってお母さんになるんだなぁ。「女性が子どもを産んで強くなるってこういうことか」と改めて分かった気がしました。

 長女が5歳、次女が3歳になった今は、うまく子どもたちをのせることができるようになりました。

 お着替えのときなどに、次女に「できるかな? まだ脱げないかな」などと声をかけると、次女は「できるよ」と答えます。そこで、「じゃあ、お姉ちゃんと競争ね! お姉ちゃん、やってあげようか?」と言うと、長女も負けじと「できるよ!」と答えるんです。そうやって、できるだけ2人に自分のことをさせるようにしています。

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