不妊治療に踏み出す女性の思いをもっと知ってほしい

 これまで、私が経験した不妊治療のことや家庭のこと、子どものことなどをお話ししてきましたが、本来はプライベートのことであり、積極的にお話ししたいとは思っていませんでした。同情してほしいとか、そういう気持ちもありません。

 でも、同じような境遇で、パートナーに分かってもらえない人やなかなか授からなくてつらい思いをしている人がたくさんいることを知って、「もしかしたら私の経験が、誰かの役に立つかもしれない」、そんなふうに思ったのです。

 今は2人の子どもの母になることができましたが、お話ししてきたように、ここまでの道は決して順風満帆とは言えないものでした。不妊治療を続けてやっと授かり、自然分娩をした長女。自然妊娠したけれど、妊娠中には命の危険もあるトラブルがあって帝王切開で生まれた次女。そのどちらも、私にとっては大きな経験でした。

 その中で感じた色々なこと――悩んだり、迷ったりしたこと。誰にも話せなくて、でも誰かに分かってほしいと思ったこと。イライラしたり、焦ったりしたこと。

 私が経験したそういうことが、同じような思いをしている誰かに伝わって、少しでもその人の悩みや苦しみを和らげることにつながったらいいな。そう願って、自分のことをお話しする決心をしました。

 そして、不妊治療や出産にまつわる様々なことについて、もっとたくさんの人に知ってほしいとも思うようになりました。

 不妊治療をするために女性が踏み出す一歩は、とても大きなものです。体の負担はもちろん、この共働きが普通になった世の中で、病院に通ったりする時間をつくることが、どれほど大変か。上司や同僚へ報告することが、どんなにハードルの高いことか。そういうことが、あまり理解してもらえていないように感じます。

 女性は男性と比べて、思ったことをすぐに言葉に出すというより、色々考えて、あらゆることを背負う覚悟をして、ようやく人に話す人が多いように思います。だから、もし、パートナーに「不妊治療をしたい」と伝えたとしたら、それはとても重大なことなのです。

 でも、その真剣さ、重大さがなかなか伝わりにくい。そういうとき、私は不妊治療クリニックの先生から伝えてもらうことをおすすめしています。男性は、第三者から言われたほうが受け入れやすいように思うからです。

 女性からしたら、「どうして分かってくれないの?」と思うけれど、そこでケンカをしてしまったら、元も子もありません。もともとは2人がお互いのことを好きで結婚して、だから相手との赤ちゃんが欲しいはずなのに、ケンカをして「じゃあ、もう赤ちゃんなんていらないよ!」という言葉を聞くことになったら、望んだこととは全く違ってしまいます。

 だから、そういうときは「“一度、一緒に病院に行こう”と誘ってみてください」と言っています。あらかじめ、先生にもなぜ不妊治療が必要なのか、話してほしいとお願いしておいてもいいかもしれません。どんな治療方法があって、どういうふうに治療を進めていくのか。パートナーに専門家の話をしっかり聞いてもらうことが必要だと思うのです。

 そして、なにより、パートナーである男性には、一緒に病院に行ってほしいと思います。パートナーの女性が「一緒に病院に行こう」と言ったのなら、それは熟考したうえでの言葉なのですから。

 現在、私はこんなふうに不妊治療について広く知っていただいたり、不妊治療をされている方に向けて自分の経験をお話ししたりといった活動を行っています。

 不定期ではありますが、不妊治療をしている方のためのお茶会も少人数制で開いています。20代の方や30代の方、治療の段階のステップアップを考えている方など、そのつど対象の方を絞って、ブログで随時募集しています。

 そこでは、少人数なので参加者の方がお互いに話すことができますし、私がアドバイスさせていただけることがあればお伝えもしています。少しでも気持ちを軽くして、前向きになって帰っていただけるような、そんな会を目指しています。

 これからも、私にできることがあるなら、発信していきたい。私の経験のどこか一つでも、誰かのヒントになればうれしいなと思っています。

―― 矢沢心さんと魔裟斗さんの経験を語る本編はこれで終わりますが、次回から別展開が始まります。お楽しみに。

(構成/荒木晶子 撮影/鈴木愛子 企画/後藤美葉)

矢沢心 矢沢心
女優・タレント
1981年東京生まれ。1997年デビュー。
夫である魔裟斗さんは、日本人初のK-1世界王者として知られる。著書に『ベビ待ちゴコロの支え方』(主婦の友社)など。
日々の暮らしをつづったオフィシャルブログも人気。
「コロコロこころ」https://ameblo.jp/yazawa-shin/