9カ月目のある日、トイレで何かがボトッと落ちた

 不妊治療をすることなく授かった2人目でしたが、妊娠生活はやはり平穏には進みませんでした。妊娠6カ月ごろ、健診で「胎盤が徐々に下の位置にきている」と言われたのです。

 1人目の不妊治療中に、何度も「うまくいきそうで、いかない」ということを経験していたので、「今度はそうきたか」と思いました。逆子だった長女のときは、おなかをさすり続けたり、「頭を下にしてね」と声をかけたりして、結果的には治ったのですが、今回は胎盤。どうすることもできませんでした。

 「妊娠週数が進めば、また上に上がっていくから心配ありません」と言われていましたが、案の定、次の7カ月目の健診では、「下のほうに半分くらいかかっている“前置胎盤”なので、自然分娩は難しい状態」と診断され、出血も時折あったので、帝王切開ができる病院に転院することになりました。

 転院先を受診すると、その日に「今日入院してください」と指示がありました。私は「ただ胎盤が下のほうにあって、自然分娩が難しいから転院した」という認識だったので、「もう入院?」というのが正直な気持ちでした。

 ところが、先生は「お母さんも赤ちゃんも、いつどうなってもおかしくない状態です。どっちの命もなくなるかもしれない。それを覚悟のうえで、入院しない選択をしますか?」と言うのです。

 ただ、家にはまだ幼い長女もいるし、夫にも状況を説明しなければいけません。「分かりました。入院はしますが、今日は待ってください」と言って、その場は帰宅しました。

 翌々日に再び受診して、「2週間後でもいいですか?」と尋ねると、即座に「ダメです!」とはっきり言われました。確かに少し出血もしていたので、撮っていた写真を見せると、「量もあるし、鮮血だから古い血じゃない。量と色ですぐに分かる」と言われて。それで、入院することにしました。妊娠8カ月目のことでした。

 入院してみると、トイレに行く以外は絶対安静で、検査をするときも車イスでの移動。先生は「自然分娩も視野に入れている」と言ってくれましたが、検査をしてみたら、胎盤はやはり子宮の入口にかかっていて、血の塊もあり、いつ出血してもおかしくない状態だと判明しました。

 それまで体はすごく元気で、自覚症状もなかったので、なぜそんなに入院を勧められるのか理解できていませんでしたが、このとき初めて、自分の体は命に関わる状態なのだと実感しました。

 検査の結果を受けて、病院からは「ご主人に帝王切開の同意書を書いてもらいたい」と言われましたが、夫は忙しくてなかなか来られませんでした。

 9カ月目に入り、ようやく夫に来てもらうことになった日の、前日の真夜中のことでした。生理痛のような痛みがあり、トイレに行ったら、便器に何かがボトッと落ちたんです。足には血がついていました。一瞬、ゾッとしました。

 すぐに看護師さんが来てくれて、落ちてきたのは胎盤から流れてきた血だと分かりました。子宮の中にはゼリー状の8センチほどの血の塊があって、これ以上おなかが大きくなると出てくる可能性があったため、「帝王切開の手術をするので、ご主人を呼んでください」と言われました。

 すぐに電話しましたが、夫はもともとベッドの脇に携帯電話を置かない人。そのうえ、前日は地方での仕事で、疲れて帰ってきたためか、何回連絡しても全く電話に出ませんでした。

 ようやく連絡が取れたのは、早朝5時か、6時ごろのことでした。話を聞いた夫は、大急ぎで病院に駆け付けてくれました。