日経DUALの連載「矢沢心と魔裟斗の『諦めない不妊治療」は、2017年8月にスタート。同年の記事の中でも特に多くの読者に読まれ、拡散された記事となりました。

 このたび、この連載に加筆・修正した『夫婦で歩んだ不妊治療 あきらめなかった4年間』が出版され、2月12日、東京・有楽町の三省堂書店にて記念トークショーとサイン会が開かれました。その内容を、ダイジェストでご紹介します。

矢沢心さん、魔裟斗さんご夫婦がそろってのイベントになり、会場は多くのメディアも駆け付けて大にぎわいとなりました
矢沢心さん、魔裟斗さんご夫婦がそろってのイベントになり、会場は多くのメディアも駆け付けて大にぎわいとなりました

公表するのは正直、怖かった

 現在、日本ではおよそ6組に1組のカップルが不妊に悩んでいるといわれ、体外受精を含む不妊治療は、今最もクローズアップされている話題の一つといっても過言ではありません。しかし、そのテーマのデリケートさから、なかなか表に出しにくいテーマでもあります。トークショーは、日経DUALの羽生祥子編集長を聞き手として、まず「なぜこのテーマについて発信したいと思ったのか」を伺うことから始まりました。

 矢沢心さんは、「私が不妊治療を始めた10年ぐらい前には妊活という言葉もなくて、不妊治療といえば“試験管ベビー”というようなイメージを持たれていた時代でした。だから公表するのは正直、怖かったです」と素直な気持ちを吐露。「それでも、自分自身が誰にも相談することができないことも多かったので、1人で悩まないでほしいなと。なかなか言いづらいことではありますが、不妊治療を始めるのは遅いより早いほうがいいし、誰かが言い出さないと広まらない。少しでも治療を受けやすい環境になってほしいなと思って発信しました」と話してくれました。

 一方の魔裟斗さんは、不妊治療というテーマを話すことへの抵抗はなかったそうです。その理由をこう説明しました。「不妊治療は、子どもを授かるまで5年近くかかっているという、そういう経験をした夫婦でないと語れないことだと思っています。そして自分たちはそれを伝えることができる立場にいるので、絶対伝えたほうがいいと思い、出版することにしたんです」。

 羽生編集長から、「記事を公開したときには、読者さんからお互いに励まし合うようなコメントもついた」という話が披露されると、魔裟斗さんからも「心がカミングアウトしてから、『実はうちも不妊治療してるんだ』とか『子どもができなくて悩んでる』ということをよく聞くようになりました」という話があり、やはりなかなか口に出しにくいだけで、不妊治療は既に身近な問題になっていることが感じられました。

 その後は、肉体的な負担よりも、精神的につらかったこと、元気に動いていた赤ちゃんの心臓が止まってしまったことなど、不妊治療をしていたときのエピソードの数々が語られました。魔裟斗さんからは「僕たちはそういう経験をしているので、普通に子どもができて元気に生まれてくることが奇跡みたいに思える」という、経験者ならではの切実な言葉が。参加した方々も真剣なまなざしで聞き入っていました。

二人で一緒に病院へ行くことが大事

 そしてトークショーは、不妊治療をしている方やこれからしようと思っている方へのメッセージで締めくくりに。

 「まずは自分の体を知ってもらいたいです。そうすれば、妊娠したいときにいつでも一歩前に進むことができます。何もなければ『いつでも妊娠できるんだ!』ってことですし、もしそこで何かが見つかっても、それは『今知ることができて良かったね』ということだと思うんです。女性だけでなく、パートナーも一緒に自分の体を知っておけば、無駄な時間やお金を浪費せずに済みます。遠回りをしないでほしいなと思います」(矢沢さん)

 「今は、『1年間子どもができないと不妊』といわれています。男性は、そういうことを知らない人が多い。僕自身もそうでした。でも、そういう状態になったら、早く病院に行ってほしい。早く治療を始めれば、早く解決方法が見つかります。男性は『恥ずかしい』『行きづらい』と思う人が多いと思いますが、僕の経験から言うと、行ってみると恥ずかしくもなんともない。二人で一緒に行くことが大事です。勇気を出して、一歩踏み出してほしいですね」(魔裟斗さん)

 続いて行われたサイン会では、緊張気味の参加者に積極的に話しかけていた矢沢さんと魔裟斗さん。カップルの参加者には、「これから治療を受けるなら、なるべく実績のあるところのほうがいいですよ」とアドバイスしたり、「頑張って」とエールを送ったり。魔裟斗さんから握手する一幕もあり、終始和やかな雰囲気の中で進みました。

 終了後には、出版したことやイベントの感想をお二人に伺いました。

 「今まで伝えられなかったことや悩んでいる人へのメッセージを伝えられて良かったです。この本を読んで、ちょっとでも不妊治療や出産を身近に感じてもらえたらいいなと思います。不妊は簡単な問題ではないし、正しい情報もあればそうでもない情報も混在する中で、自分たちの本だけが正しいとは言いませんが、参考にしてもらえたらうれしいです」(矢沢さん)

 「なかなか重いテーマですし、普段やっていることとは違うので、今日は緊張しました。でも、今日来てくれた方たちにも以前の自分たちと同じ悩みを持っている方が多かったので、ぜひ子どもとの楽しい時間を持てるようになってくれるといいなと思います」(魔裟斗さん)

 1組でも多くのカップルが遠回りすることなく、望む時間を手に入れることができますように。お二人のそんな願いにも似た気持ちが詰まった1冊、ぜひ手に取ってみてください。

(取材・文/荒木晶子 撮影/鈴木愛子)

本連載をまとめた書籍『夫婦で歩んだ不妊治療 あきらめなかった4年間』がついに発売!
夫婦それぞれの視点から不妊治療の体験を綴った、
不妊治療で悩むすべての人に届けたいメッセージ
『夫婦で歩んだ不妊治療 あきらめなかった4年間』 (本体1300円+税)

● 妊娠するチャンスは1年に12回だけ
● セコンド役の夫と2人で迎えた、出産の瞬間
● 流産をきっかけに初めて知った妻の気持ち
● “試験管ベビー”という言葉に負けたくなかった
● 不妊治療の経験者は、思っている以上にたくさんいる
● 経験者が語る「不妊治療Q&A」その他

日経BPブックナビで購入する  ●Amazonで購入する

魔裟斗
格闘家、俳優、タレント、スポーツキャスター。
1979年生まれ。日本人初のK-1世界王者として知られ、2009年引退後は多方面で活躍中。
K-1 WORLD MAX 2003 2008 世界王者。
生涯戦績は63戦55勝(25KO)6敗2分。
矢沢心
女優・タレント
1981年東京生まれ。1997年デビュー。
夫である魔裟斗さんは、日本人初のK-1世界王者として知られる。
著書に『ベビ待ちゴコロの支え方』(主婦の友社)など。
日々の暮らしをつづったオフィシャルブログも人気。
「コロコロこころ」https://ameblo.jp/yazawa-shin/