不妊治療の経験者は、思っている以上にたくさんいる

―― この連載を始めて、何か周りの方からの反応や、変化はありましたか?

矢沢 すごく身近な友だちからも、「こんなに大変な不妊治療をしていたなんて、初めて知った!」と言われました。それに、子どもたちを連れて公園に行くと、全然知らないお母さんたちから、「実は私も不妊治療をして授かったんです」なんて声をかけられるようにもなりました。たくさん人が来るような公園じゃないのに、その中に不妊治療を経験したママがこんなにいるのなら、日本全国ではすごい数になるんだろうなと実感しましたね。

魔裟斗 うちの娘が2人とも、すごく元気なんですよ。風邪もひかなくて、体も丈夫。だから、不妊治療をして授かった子どもも普通の子どもと全く変わらないよって、堂々と言えますね。

矢沢 昔だったら、不妊治療で授かった子どもは体が弱いというイメージがあったかもしれないですけど、そんなふうには思ってほしくなかった。人一倍元気に育ってくれて、良かったなと思います。

―― 働いている女性からは、どこまで本気でそう思っているのか分かりませんが、「会社で昇進してから」とか「住宅ローンの負担が大きくて考えられない」などという話も聞きますね。

魔裟斗 逆に昇進したら、責任が大きくなって、子どもどころじゃなくなっちゃいそうですけどね。

矢沢 職場での立場など、そこまで視野に入るような能力がある人は、子どもを産んでからでも他のことができるんじゃないでしょうか。未来の仕事については、子育ての目途がついてからでも遅くないと思うんです。本当に子どもがほしいと思っているなら、仕事やお金の問題などと天秤にかけるより、あとあとのことを考えて早く行動するのも悪くないと思います。

―― 不妊治療をもっと受けやすくするために、周りの人の意識や社会の制度などに対して、こうなってほしいという思いはありますか?

矢沢 不妊治療はなんといってもお金がかかります。自治体から助成金が出ても回数制限があります。もちろん、助成金の財源は税金ですし、そのお金をどこまで使っていいのかという問題もありますが、お金のことで子どもを諦めたりする人がいるのもリアルな現状です。

魔裟斗 不妊治療は、お金と時間(年齢)という大きな制限があります。現状、実際にお金の問題で治療を続けられなくなっている方々がいるので、それは本当に考えていくべきことだと思います。

矢沢 これは不妊治療だけの話ではなくて、その先の待機児童の問題にも関わっていくんじゃないかなと思っています。

―― 保育園が足りないという問題も、最初に声が上がり始めた頃は、個人の問題だと思われていました。それがようやく公的な問題として認められるようになった。不妊治療も今はまだ非常に個人的なことだと思われていますけど、出産と育児という、同じ分野にある問題ですよね。

魔裟斗 人口減少で大変だ、1億人をキープしなきゃいけないと言っているなら、その問題の根底にある「出産」、そして「不妊治療」に取り組まないでどうするんだ、って話ですよ。

矢沢 不妊治療は女性の周期に合わせて何度も通院しなければなりません。まだまだ不妊治療というものが理解されていない世の中で、働きながらの通院は精神的にもかなりつらいものがあります。周りにこれ以上迷惑をかけられないという思いから、自ら退職する女性も多いです。治療はとにかくお金がかかるから働かなければならないのに、辞めないと通院しづらい。矛盾していますよね。社会や職場で皆さんに不妊治療についての理解を深めていただき、授かりたい女性は授かりやすくなるような、配慮ある社会になるといいなと思います。

―― 若い女性たちの意識についてはどう思われますか?

矢沢 私みたいに、「若いからまだ大丈夫」と言われて、「そうか」と安心している人って、たくさんいると思うんです。でも、パートナーがいて、いずれ子どもが欲しいと考えているのなら、とりあえず一度病院に行ってほしい。そして、自分の体がどんな状態かを知ってほしいんです。もしパートナーがいなかったり、今は子どもは欲しくないと考えていても、自分の将来を考えれば、一度検査してみてもいいと思います。自分の体を把握することは、どんな人にとっても必要なことのはずですから。

(構成/荒木晶子 撮影/鈴木愛子 企画/後藤美葉)

魔裟斗
格闘家、俳優、タレント、スポーツキャスター。
1979年生まれ。日本人初のK-1世界王者として知られ、2009年引退後は多方面で活躍中。
K-1 WORLD MAX 2003 2008 世界王者。
生涯戦績は63戦55勝(25KO)6敗2分。
矢沢心
女優・タレント
1981年東京生まれ。1997年デビュー。
夫である魔裟斗さんは、日本人初のK-1世界王者として知られる。
著書に『ベビ待ちゴコロの支え方』(主婦の友社)など。
日々の暮らしをつづったオフィシャルブログも人気。
「コロコロこころ」https://ameblo.jp/yazawa-shin/